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【裳華房】 メールマガジン「Shokabo-News」連載コラム 
裳華房の“古書”探訪(2)

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松井元興 著『分析化學(上)(下)』(初版 大正7年)

 現在把握している限りにおいて,裳華房が化学分野において最初に刊行した日本人著者による書籍(*1)が,大正7年発行(*2)の松井元興(もとおき)著『分析化學(上)(下)』です.

 19世紀後半に物理化学が大きく進展し,それまで経験則的であった分析化学にも急速に理論の光が当たるようになりました.このころ,質量分析法の原理(1896年頃),クロマトグラフィーの原理(1906年),X線の回折・反射の法則(1913年)等,分析化学にとって重要な発見が次々となされています.
 また,本書が出版された大正7年(1918年)には,日本で初めて分析化学講座(当時の名称は化学第四講座)が東北帝国大学理科大学(現在の東北大学理学部)に設置されました.

 松井元興著『分析化學』は,上巻が「定性分析編」,下巻が「重量分析編」「容量分析編」「瓦斯(ガス)分析編」から構成されています.

 上巻の序文に「今日の分析化學は如何にして分析を行ふべきかを示すと同時に,何故に斯くせざるべからざるかを併せ教ふる」とあるように,単に分析操作の方法のみならず,その背景となる理論にできるだけ焦点をあてることを目的に解説しているようです.
 とくに上巻では,化学反応において,イオン反応に属するものは化学反応式をイオン反応式で記載することで,(反応の全体像を理解するにはやや分かりにくい側面はありますが)分析の意味するところを読者に理解させようと努めています.

 ご参考まで,上巻,下巻それぞれについて,序文,目次,本文の一部,奥付をpdfファイルにしてWebに掲載しました(ファイルサイズにご注意ください).
 ・上巻の内容見本 (約18MB)
 ・下巻の内容見本 (約19MB)

 当時の売価は上巻が2円50銭,下巻が2円80銭.送料は12銭.

 発行部数について具体的な数字資料は残っていませんが,初版発行から10年経った昭和3年には第13版を発行,昭和5年には増訂改版を刊行しており,また奈良女子高等師範学校などで教科書として採用されていた記録がありますので,それなりの部数を発行したものと思われます.

 著者の松井元興は,当時,京都帝国大学理科大学の教授で,昭和8年にいわゆる滝川事件(*3)で辞職した小西直重の後任として京都帝国大学の第10代総長に就任,昭和16年には立命館大学第5代総長に就任されています.
 また,日本物理化学研究会(昭和12年設立)の初代会長を務められました.
 裳華房からは,他に『有機電気化学』(大正8年),『電解分析』(大正9年),『有機化學講義』(大正11年)等も出版しています.


[脚注]
 *1 翻訳本としては,大正4年(1915年)にベルトラン著『生理化學実驗法』が出版されています.
 *2 ご参考まで,大正7年当時の裳華房の発行書物を知るための資料として,本書の巻末に掲載されていた広告を下記にアップしました.
 ・巻末広告 (pdfファイル,約1MB)
 *3 まったくの余談ですが,この滝川事件とゾルゲ事件をモデルに,黒澤明監督が戦後第1作として発表したのが映画『わが青春に悔いなし』です.


『分析化學(上)(下)』    松井元興 著/菊判/裳華房
上巻 256頁,大正7年(1918年)3月発行
【目次】 第一編 定性分析(總論/金屬即ち陽イオンの反應/酸即ち陰イオンの反應/豫備實驗及試料の處理法/陽根の組織的定性法/陰根の組織的定性法/定性分析表/稀有元素) 附録:分析實驗用試藥
下巻 280頁,大正7年(1918年)6月発行
【目次】 第二編 重量分析(總論/陽根の定量/陰根の定量/元素分析/稀有元素の定量) 第三編 容量分析(總論/金屬の定量/酸の定量/稀有元素の定量) 第四編 瓦斯分析(總論/主なる氣體分析法/氣體混合物の分析法)附録:各種の表/索引

 ※上記の目次中,一部の旧字体を新字体に置き換えています.

☆記述の誤りなど,お気づきの点がありましたら m-list@shokabo.co.jp まで御連絡ください.


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