梶山英二 著『日本海洋學』[初版 大正9年]
本コラムの第21回で「弊社では、伝統的に地学分野は“層”が薄く」と書きましたが[*1]、今回ご紹介するのは、その地学分野の1冊、梶山英二著『日本海洋學』(初版 大正9年;1920年)です[*2]。
国立国会図書館のデータベースによれば、本書以前に「海洋学」の書名をもつものは、明治44年に早稲田大学出版部より発刊された『海洋学講話』(横山又次郎著)しか見当たりませんので、(確認できた範囲で)日本で最初に刊行された“海洋学の教科書”といってもよいかと思います[*3]。
著者・梶山英二の経歴など詳しいことは分かりませんが、刊行当時は農商務省水産講習所の技師で、1910年から開始された農商務省による漁業基本調査などを(中心的に)担われていたのではないかと思われます。
本書の「自序」によれば、執筆に際して、「本邦に於ける海洋竝に水産生物に關する調査研究を各方面より蒐集し、之れに吾人が數年來親しく實地調査した研究事項を加えて編述したもの」とあります。
本書の目次を下記に挙げておきます。
(旧字体は新字体またはカタカナに修正してあります)
第一編 海洋学
1.海洋の成立と塩分 2.生物の起源と分布 3.地球の形態 4.底質 5.水準面 6.水温 7.比重 8.光線の屈折および反射 9.水色と透明度 10.ガス 11.流氷 12.海水の圧力 13.波浪 14.風浪 15.潮浪(潮汐) 16.潮浪の進行と潮流 17.暖流と寒流(海流) 18.プランクトン 19.発光 20.塩分の比重以外の現象 21.海霧 22.気候
第二編 海洋と水産
23.水産觀 24.漁場 25.漁場としての外的条件 26.漁場としての内的条件
現在市販されている海洋学の教科書の多くは、物理学、化学、生物学に分けて編集しているものが多いようですが(例えば東海大学海洋学部のもの等)、本来、海洋学はそれらがバラバラでない、シームレスなものだと思います。本書が、物理学から生物学までを一貫して収めていたことは、日本の海洋学にとって大きな意味があったのではないかと思います。
また「自序」に、本書が水産の従事者や海洋の研究者の参考としてのみならず、四方を海に囲まれた日本に住む一般国民の海洋と魚類に関する知識の向上に寄与したい旨述べられていて、本文の記述は(拝読した範囲では)できるだけ平易に執筆されているようです。
とはいえ、いわゆる普及書の類としてはやはり専門的に過ぎたようで、梶山は本書刊行の6年後(大正15年12月)に、厚生閣書店(現在の恒星社厚生閣)より『海洋学通論』を出版しています 。こちらは本文約120頁と手ごろな読み物になっています[*4]。
なお、『日本海洋學』は全文が国立国会図書館のデジタルコレクションにて一般公開されています。
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/960401
[注釈]
*1 裳華房の“古書”探訪(21)
中川源三郎 著 『農業氣象學』 [初版 明治32年]
https://www.shokabo.co.jp/oldbooks/1899agrometeorology.htm
*2 海洋学の進歩・普及を図る目的で日本海洋学会が設立されたのが昭和16年(1941年)なので、その20年以上前の出版になります。
*3 海洋の“物理”に関しては、大正5年に寺田寅彦著『海の物理学』(日本のローマ字社)が出版されています(全編ローマ字表記です)。
*4 『海洋学通論』も国立国会図書館のデジタルアーカイブにて全文が一般公開されています。
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1016740
◆梶山英二 著『日本海洋學』
菊判/304頁/初版 大正9年(1920年)11月/裳華房
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