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竹内端三 著 『高等微分學』 [初版 大正11年]
正確なデータはありませんが,数学諸分野で,高等教育(大学や高専など)における教科書として,点数・冊数ともに最も多く出版されているのは,たぶん「微分積分」ではないでしょうか.生物系学部を卒業した筆者も,微分積分は必修科目として受講しました. 書名にある「高等」とは高等教育を意味し,当時の(旧制)高等学校(現在の大学教養課程に相当)における教科書として著されたものです. 裳華房“初”だけでなく,国立国会図書館のデータベースによっても,本書以前には,いわゆる微分積分または解析学という形で著された成書は,翻訳書を含めても数えるほどしか出版されておらず[*1],日本における最初期の微分積分教科書といえるでしょう. 翌 大正12年(1923年)には姉妹書となる『高等積分學』も刊行しました.
類書がほとんどなかったためか,『高等微分學』『高等積分學』ともに相当の部数が売れたようで[*2],昭和2年(1927年)に刊行された増訂改版の緒言で著者は「爾来重版又重版ツイニ紙型磨滅シテ用イ爲サザルニ至ル」[*3]と記しています. 以下に,『高等積分學』とともに目次(新字,現代仮名使いに修正)をあげておきます. 『高等微分學』 本書を使った当時の授業がどのように行われていたのかは判然としませんが,この2冊が(その後現在に至る)高等教育における微分積分の講義内容の大きな定形を作ったようだということを,東京工業高等専門学校名誉教授の芹沢正三氏が述べています. (現在の微分積分の教科書は)微分のことは微分でせよというが,微分の応用まで一通り終ってからでないと,積分には入らない.私が気が付く限りでは,この方向は,いまの先生方はおそらくご存知ない大昔の,渡辺孫一郎先生の『初等微分積分学』や,竹内端三先生の『高等微分学』,『高等積分学』が敷いた路線をほとんど忠実に辿るものと思われる.」 [*4]
著者の竹内端三(たけのうちたんぞう)は明治20年(1887年)6月生まれ.東京帝国大学理科大学数学科を卒業した後,五高(1911年〜),八高(1915年〜),一高(1919年〜)の教授を歴任した後,大正11年(1922年)に東京帝国大学教授に就任. 実によく準備された講義で、ノートをとらなくてもよかった位で,むしろノートをとらないほうがよい位です。 [*5]
等と述べています. 竹内は,名著の誉れも高い『楕円函数論』(岩波書店,昭和11年)をはじめ,たくさんの成書を著しましたが,大正15年(1926年)に裳華房から刊行した『函数論』[*7]は,関数論の代表的書籍として長年にわたって定評をいただき,とくに上巻(昭和41年にご子息の竹内端夫氏が内容を変えずに新字・新仮名遣いに修正した新版)は,約90年後のいま現在も販売を続けているという,超ロングセラー書籍になっています.
なお本書は,国立国会図書館のデジタルアーカイブで公開されています. [脚注] *1 明治32年発行の『積分学講義』(長沢亀之助著,数書閣),明治40年発行の『新撰微分積分學』(松村定次郎著,博文館),大正8年発行の『最近微分積分學精義』(河野徳助著,高岡書店)など. *2 藤原重幸氏は「高校教科書では『高等微分学,積分学(竹内端三)』 が類書をしのぐ王座にあった.竹内端三の解析学全般への幾多の著書は重版の記録を作った.」と述べています. *3 紙型とは,活字を使った活版印刷において,原版を複製するための鋳型として,高温に耐えられる特殊な紙に組んだ活字を加熱・加圧して作られたもので,これに熔けた鉛を流して印刷用の鉛版を作ります. *4 芹沢正三(2001)「巻頭言:2つの提案」,日本数学教育学会高専・大学部会論文誌 8(1). *5 伏見康治ほか(1965)「統計物理学雑談」,物性研究 4(5). *6 伏見康治ほか(1996) 座談会「数物学会の分離と二つの科学」,日本物理学会誌 51(1). *7 https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-1022-6.htm
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