マゼラン銀河(Magellanic galaxies)

可視光で撮影した
大マゼラン雲(LMC)

可視光で撮影した
小マゼラン雲(SMC)

大マゼラン雲
(Large Magellanic Cloud)
かじき座/棒渦状銀河(SBm)
赤経 05h23.6m 赤緯 -69゜45′
B等級 0.6等 視直径 650′× 550′
距離 16万光年
小マゼラン雲
(Small Magellanic Cloud)
かじき座/不規則銀河(SBmp)
赤経 00h52.7m 赤緯 -72゜50′
B等級 2.8等 視直径 280′× 160′
距離 20万光年
われわれの銀河系の“すぐ”そばには, 16万光年と20万光年の距離に, それぞれ銀河系の10分の1,100分の1の規模をもつ伴銀河, 大小マゼラン雲(マゼラン銀河)があります. マゼラン雲の名前は, ポルトガルの探検家フェルディナンド・マゼランが, 1520年に世界一周をしたときに見つけたことに由来します.

資料提供:Dr. Arthur A.Page/1975年7月撮影


マゼラン銀河のX線像

大マゼラン雲
小マゼラン雲
あすか で実施した,マゼラン雲のX線カラー撮影によって, X線の「色」の違いから, X線天体の種族をはっきり区別,分類する方法が発見されました.

上図は あすか が撮影した,大・小マゼラン雲のX線カラー写真です. 色はX線のエネルギーの違いを表しており,エネルギーが高い方(2-7keV)を青, エネルギーが低い方(0.7-2keV)を赤で表わしています. 明るい天体のうち,青いものはX線連星パルサー, 赤いものは超新星残骸です. 大マゼラン雲には超新星残骸が多く, 小マゼラン雲にはX線連星パルサーが多いことがわかります. 大マゼランに見える,赤と青が混ざったように見えている部分は, 超新星残骸中のパルサー,またはブラックホールです. 上の図で真っ暗な部分は,まだ あすか が観測していないところです.

なお,X線望遠鏡XRTの結像性能のために, X線源が点源の場合も像が広がってしまい, まるで蝶が羽を広げたような形に見えます. 明るい点源ではこの収差がとくに目立ちます.
また視野の近くにある明るいX線天体の光が, 視野の中に入ってきてしまうことがあります. この現象を迷光と呼んでいます.

資料提供:小山勝二,横川 淳,今西健介,辻本匡弘,西内満美子(京都大学)

左の図は,X線の「色」による,マゼラン銀河の天体の分類です. 一般にX線天体は,その「色」によって明るさが違います. 超新星残骸は(波長の長い)「赤い」X線で明るく, 連星パルサーは(波長の短い)「青い」X線で明るく見えることから, X線天体の分類ができます.

下の図は,各種天体の個数の比較です. 大小マゼラン雲の質量は,銀河系の10分の1,100分の1であるため, われわれの銀河系(天の川銀河)と同じ質量に換算して比較するため, 大マゼラン雲の天体の個数は10倍, 小マゼラン雲のそれは100倍にしてあります. その結果,マゼラン雲では天の川銀河に比べ, X線連星パルサーと超新星残骸の分布密度が驚くほど高いことがわかりました. とりわけ小マゼラン雲におけるX線連星パルサーで際立っています.

小マゼラン雲で1997年までに知られていたX線連星パルサーは3個でしたが, 1998年になって,あすか などにより, 新たに7個のX線天体から脈動(つまりパルサー)が発見されました. さらに先述の分類法を適用し, 20個近くのX線連星パルサーとその候補天体が見つかったのです. 約100倍も巨大な天の川銀河ですら,これまでの30年間で約60個ですから, 小マゼラン雲は今まさにパルサーラッシュといえます.
太陽の10倍から20倍の質量をもつ大質量星は, 最期の超新星爆発で中性子星を作ります. これが別の大質量星と連星になっていると, X線連星パルサーになります. 大質量星の寿命は約1000万年ですから, 大量のX線連星パルサーの発見は,1000万年ぐらいの過去に, 小マゼラン雲で爆発的な星誕生とそれに続く超新星爆発 (この現象をスターバーストといいます)があったことを意味します. 不可解なことに,このスターバーストはふつうと異なり, 大質量連星を選択的に形成したようです.

近接する大小マゼラン雲と天の川銀河は, 互いの強い重力場の中で複雑に動き回っています. 遠い過去にはニアミスもあったことと思われます. そんなときには,小柄な小マゼラン雲は深刻な影響を受けます. 隣にある銀河(天の川銀河)の強い重力は小マゼラン雲のガスを激しく擾乱・圧縮し, それが1000万年ぐらい昔のスターバーストの引き金になったのでしょう. X線カラーイメージは, 隣の大きな銀河に翻弄される小マゼラン雲の 数奇な運命を映したスナップショットと言えるようです.

資料提供:小山勝二,横川 淳,今西健介,辻本匡弘,西内満美子(京都大学)


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