コンプトン散乱(Compton Scattering)

光子が(静止した)自由電子に衝突して自由電子にエネルギーを与える現象を, コンプトン過程(Compton process)とか コンプトン散乱(Compton scattering)と呼びます. 一方,相対論的な速度で運動している電子と赤外線や可視光の波長の光子が衝突したときは, 電子のエネルギーの方が光子のエネルギーよりはるかに大きいので, 電子が光子にエネルギーを与えることになります. この現象はコンプトン過程/散乱の逆であることから, 逆コンプトン過程(inverse Compton process)とか 逆コンプトン散乱(inverse Compton scattering)と呼ばれます.
この逆コンプトン散乱が効果的に生じると, 低エネルギー(すなわち赤外線や可視光)の光子は, 高エネルギーの電子と衝突するたびにエネルギーを得て, 次第に高エネルギー(X線やγ線)領域にたたき上げられていきます. 衝突回数が多いほど光子のエネルギーは高くなりますが, 衝突回数の多い光子ほど相対的に数は少なくなります. そのため同じエネルギーのX線が少しだけコンプトン散乱を受けた場合, 結果として,(シンクロトロン放射と同じような) べき乗型スペクトル(power law spectrum)が形成されます.

このような逆コンプトン散乱が起こるためには, 高エネルギーの電子と同時に低エネルギーの光子が必要です. 逆コンプトン散乱は,X線星のスペクトルの高エネルギー領域や, クェーサーなど活動銀河のX線放射で重要な役割を果たしていると考えられています.

ちなみに,コンプトン散乱の名前は, この現象をはじめて調べた物理学者のコンプトン(A.H. Compton)に由来します.


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