磁場の中に高速で運動する電子が飛び込んでくると, 電子は電荷を持っているので磁場から力を受け, 磁力線のまわりを螺旋運動するようになります. その際,電子のまわりの電場の急激な変化が光速で周囲の空間に伝わり, すなわち電磁波(光子)が放射されるのです. これがシンクロトロン放射(synchrotron radiation)です. あるいは,電子が磁場によって磁気的なブレーキ(制動)を受けて出す放射なので, (熱制動放射に対して), 磁気制動放射(magnetic bremsstrahlung)ということもあります. | |
1個1個の電子は,シンクロトロン放射によって, ある振動数でピークを持った連続的なスペクトルを放射します. そのときのピーク振動数や強度は, 磁場の強さや電子のエネルギーに関係し, 磁場の強さが強いほど,また電子のエネルギーが大きいほど, 振動数の高い領域で強い電磁波が放射されます. | |
ところで,磁場中には無数の電子があるはずで,
それぞれの電子からシンクロトロン放射が出てきます.
個々の電子のエネルギーはいろいろな値を取っていますが,
エネルギーの高い電子ほどその個数は少ないでしょう.
その結果,多数の電子から放射されるシンクロトロン放射のスペクトルも,
全体としてみれば,エネルギーが高いほど強さが対数的に減少する,
いわゆる,べき乗型スペクトル(power law spectrum)になっています.
べき乗型スペクトルは,横軸を振動数の対数,縦軸を光の強さの対数とした,
スペクトル図の上では,(一般に右下がりの)直線になります.
具体的には,エネルギー E をもつ電子の個数 N が, N ∝ E -β のように減少するとき, シンクロトロン放射のスペクトル S は,
対数では
で表されるべき乗分布になります. このようなシンクロトロン放射が起こるためには, 磁場と高エネルギーの電子が必要です. しかし,宇宙では磁場も電子もありふれた存在なので, シンクロトロン放射もごくありふれた現象です. なおシンクロトロン放射の名前は, 磁場を同調(シンクロ)させて荷電粒子を高速に加速する装置 (シンクロトロン加速器)に由来しています. |