物質(ガス)の温度
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物質(ガス)は非常に多数の粒子からできていて,
それらの物質を構成する粒子は,
つねに小刻みに震えたり(固体や液体の場合),
飛び回ったり(気体の場合)しています.
このような物質(ガス)粒子の運動を
熱運動(thermal motion) と呼んでいます.
おおざっぱには,この熱運動の度合いを表す指標が温度T (temperature) です.
実際,
多数の物質(ガス)粒子の平均運動エネルギーを E とすると,
E〜kT
となります( k はボルツマン定数と呼ばれる定数).
物質(ガス)に外部から熱やその他のエネルギーを加えると,
物質の熱運動は激しさを増し,したがって温度は上昇し,
逆に,冷却や光の放射でエネルギーが抜かれると,
熱運動の度合いは小さくなって温度は下降します.
もう少し細かくみると,
空気分子や太陽大気の水素プラズマガスなどは,
常に飛び回っていて,他の粒子と衝突しては,
進む向きを変えたりエネルギーを得たり失ったりしています.
しかし,考えている領域(空気の一部や大気の一部)で,十分時間が経てば,
個々の粒子の状態は変化しつづけても,
粒子の分布全体としては同じようにみえるようになります.
このようなある領域で熱の移動がなくなって落ち着いた状態を,
(局所)熱平衡状態(thermal equilibrium) と呼んでいます.
熱平衡状態になったガス粒子の速度分布やエネルギー分布をみると,
速度0(エネルギー0)の粒子はなくて,
非常に大きな速度(高いエネルギー)の粒子も少なく,
ある典型的な速度(エネルギー)の粒子が多いという,
特徴的な分布になっています.
この熱平衡状態の分布をマクスウェル分布(Maxwell distribution) と呼びますが,
マクスウェル分布の形状やピークの位置などは温度だけで決まります.
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輻射(光)の温度
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輻射(光)も無数の粒子すなわち光子からできていて,
それらの光子はいろいろなエネルギーをもって飛び回ってます.
このような光子の集まりである輻射も熱平衡状態になれば,
物質(ガス)と同じように温度を決めることができます.
熱平衡状態になった輻射を黒体輻射(blackbody radiation) というので,
そのときの輻射の温度を
黒体温度Tbb (blackbody temperature) と呼びます.
輻射(光)の場合も,温度は粒子(光子)も平均エネルギーに比例していて,
多数の光子の平均エネルギーを E とすると,
E〜kT
となります( k はボルツマン定数と呼ばれる定数).
もう少し細かくみると,
物質粒子は相互に衝突し合うので,特殊な状況を除いて,
物理的に閉じたシステムでは,
十分に時間が経てば熱平衡状態に落ち着きます.
ところが光は他の光とは(ほとんど)衝突しません.
そのため輻射だけをほっておいても熱平衡には落ち着きません.
すなわち輻射(光子)は,通常は,物質(ガス)粒子と相互作用して,
光子が原子・分子によって頻繁に吸収放出されたり,
ランダムに多数回散乱されて,
物質と輻射がエネルギーや運動量をやり取りした結果,
物質と輻射が同じ温度の熱平衡状態になります.
物質(ガス)と熱平衡状態になったときの輻射(光子)の分布
(あるいは,そのときに放射されるスペクトル)が,
黒体輻射スペクトル(blackbody spectrum) とか,
プランク分布(Planck distribution) と呼ばれるものです.
プランク分布の形状やピークの位置などは(黒体)温度だけで決まります.
ある振動数νでの黒体輻射スペクトルの強度 Bν は,
光速を c,プランク定数を h,
ボルツマン定数を k とすると,
のように表されます.
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いろいろな温度
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3K宇宙背景放射はきわめて黒体輻射に近いことがわかっていますし,
人体や太陽や降着円盤なども大まかにみれば黒体輻射で近似できます.
しかし,実際の天体では,ほとんどの場合,
いろいろな理由から放射スペクトルは黒体輻射スペクトルからずれています.
また観測波長域の制限や途中での吸収などのために,
本来のスペクトルの一部しかわからないことも多いです.
そのような実際の天体のスペクトルでは,
上で述べたような黒体温度は適用できません.
しかし,温度は直感的に把握しやすい概念なので,
いろいろな温度を定義して,
温度という形で一つの指標(目安)を与えます.
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有効温度
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黒体輻射スペクトル Bν(Tbb) では,
スペクトル分布の形が黒体温度Tbb だけで決まりますが,
さらにスペクトルを全波長域にわたって積分した
全黒体輻射強度 B(Tbb) も温度だけで決まり,
温度の4乗に比例します.
B (Tbb)=(1/π)σTbb4
定数σはステファン・ボルツマンの定数といいます.
逆に,天体のスペクトルが黒体輻射スペクトルからずれている場合についても,
スペクトル全域で積分した全輻射エネルギー強度I に対して,
上の式を適用して定めた温度を
有効温度Teff (effective temperature) といいます.
有効温度は,天体の表面温度や天体から放射されるエネルギーの目安になります.
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色温度
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星など天体のスペクトルの一部が観測できて,
観測波長域で強い吸収などがなければ,
その領域の連続スペクトルにもっともフィットする黒体スペクトルの温度でもって,
温度の指標とすることがあります.
可視光などでは連続スペクトルの傾きは“色”に相当することから,
このようにして決めた温度を
色温度Tc (color temperature) といいます.
光学的に厚い恒星大気などでは,色温度は有効温度より高めになります.
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輝度温度
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たった一つの波長でのみ天体のスペクトルが観測できる場合,
その波長での観測された天体の電波強度に対応する黒体輻射の温度を,
輝度温度Tb (brightness temperature) といいます.
観測波長λ(振動数ν)での電波強度を Iν とすると,
レイリー=ジーンズの領域では,
輝度温度 Tb との間には,
Iν = (2kν2/c2)Tb
= (2k/λ2)Tb
という関係があります.
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アンテナ温度
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天体の電波を受信するパラボラアンテナは,
どんな方向の電波でも捉えられるわけではありません.
パラボラ面の中心軸(光軸)方向にはもっとも感度がよく,
光軸から離れるほど感度が悪くなります.
光軸のまわりでアンテナの感度が十分ある範囲を主ビームといい,
主ビームの広がりをアンテナ立体角Ωaといいます.
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アンテナに入射するエネルギー(電力)から見積もった温度を,
アンテナ温度Ta (antenna temperature) といいます.
アンテナの指向性がよければアンテナ温度は輝度温度に等しくなりますが,
電波源の広がりΩがアンテナの主ビームの広がりΩaよりも小さいと,
アンテナの電波受信の効率は悪くなり,
その結果,アンテナ温度は輝度温度よりも低くなります.
おおざっぱには,
Ta = TbΩ/Ωa
となります. |
単位
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摂氏温度 ℃
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日常の生活では,
気温や体温は摂氏(セ氏)温度で測ります.
摂氏温度は,
1気圧で水が凍る温度を0,水が沸騰する温度を100として,
その間を100等分して定めた温度目盛です.
摂氏温度の単位は,セルシウス(A. Celsius)の頭文字を取って,℃を使います.
なお,単位℃には必ず“°”を付けます.
本当はCで表したいところが,
電気の単位でC(クーロン)という文字がすでに使われていたために,
区別するために℃としたのです.
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絶対温度 K
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科学的な測定(およびSI単位)では,
温度は絶対温度で測ります.
絶対温度は,
熱力学の基本法則から決められた温度で,
(古典的な意味で)
あらゆる熱運動がなくなる極限の温度を0とし,
摂氏温度と同じ割合で1度を刻んだ温度目盛です.
絶対温度の単位は,
ケルビン卿(Lord Kelvin)[本名W. トムソン(W. Thomson)]の頭文字を取って,
Kを使います
(“°”は決して付けません).
摂氏温度(℃)と絶対温度(K)の換算は,
K = ℃ + 273.16
となります.
星など天体の温度を表すときには,
天文学でもSI単位と同じく,
ケルビン(K)を単位とする絶対温度を使います.
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