電波アンテナのしくみ(Radio Antenna)
<体験版>

電波は,電気信号として検出することができます. 空中を伝播する電波を能率良く電気信号に変換する装置を 電波アンテナ(radio antenna)といいます. 電波望遠鏡用のアンテナも, テレビ・ラジオや携帯電話などのアンテナと原理的に同じものです. 電波望遠鏡のアンテナは, 特定の方向からやってくる電波を能率的に電気信号に変えることができます. そこで,アンテナの向きを変えることで, 電波のやってくる方向を測定することができます.
光学望遠鏡のしくみ


電波望遠鏡アンテナ

電波望遠鏡用のアンテナには様々な形態のものがあります. 製作の容易さや費用と性能との兼ね合いで, どのような形態のアンテナを使用するのがよいかが決まります.
アンテナの基本は, 導体の棒を用いたダイポールアンテナと呼ばれる形態のものです. 棒の長さが電波の波長の1/4になっていると, 大変能率良く電波を電気信号に変えることができます. すべての受信機には,原理的に,ダイポールアンテナに相当する部分が存在しています. 導体の棒を複数平行に並べると,電波を受信する効率が格段に上昇します. このタイプのアンテナは八木・宇田アンテナと呼ばれます. 今日では,テレビアンテナに使用されています. 電波天文学では,比較的波長が長い電波の観測用の望遠鏡で使用されています. ダイポールアンテナの前にラッパ状の金属錐を置くと, 電波がやってくる方向を正確に制限することができます. これをホーンアンテナといいます. 電波天文学では,電波の強さを特に正確に測定したい場合に, この形態のアンテナが使われます.

アンテナシステム

上記のような基本的なアンテナを単独で使用する 単一アンテナ方式と, 複数組み合わせたシステムで使用する アレイ方式があります. 前者の方式には, 単一ダイポールアンテナや単一パラボラアンテナなどが, 後者の方式には, ダイポールアレイや干渉計システムなどがあります.

レンズアンテナ

可視光の望遠鏡では,よく知られているように, 光を屈折させるレンズを使った屈折望遠鏡と, 光を反射させる反射鏡を使った反射望遠鏡があります. 電波望遠鏡では,観測する電波の波長が可視光の波長よりも長いために, どうしても主鏡の口径が大きくなってしまいます. そのため,原理的というより,コストや技術的な問題から, ふつうは透過型のレンズアンテナではなく, 反射型のパラボラアンテナが使われてきました. しかし,技術の発達に伴い,最近では新しい手法で, 巨大で軽量な電波レンズを製作しようという試みも行われています.
レンズアンテナのしくみ


焦点の種類

電波望遠鏡として,もっともポピュラーに使われているのが, パラボラアンテナ(parabola antenna)です. 上で述べた3種類のアンテナの前にお皿の形をした反射鏡を取りつけて, より広い範囲に降り注いでいる電波を能率良く集めることができます. このお皿を主鏡(main dish)と呼びます. パラボラアンテナという名称は, 主鏡が回転放物面(paraboloid)になっていることからつけられました.

主鏡に対して受信機(ホーン)をどの位置に置くかによって, パラボラアンテナは3種類に別けることができます.

主鏡に正対して受信機(ホーン)を設置したのを 主焦点望遠鏡といいます. 反射鏡が1枚だけなので,パラボラアンテナの中では, もっとも簡単に作ることができます. 主鏡に正対して,もう1つ反射鏡(副鏡)を設置し, その反射鏡で反射した電波を受信機するのを カセグレン望遠鏡といいます. 主焦点に受信機のような複雑な装置を置かずにすむので, よく採用される形態です. 副鏡から来る電波を,さらに鏡で反射し,アンテナの姿勢によらずに, 固定して設置した受信機の方向に導くように工夫した望遠鏡を クーデ望遠鏡といいます. 動かすのが困難なほど巨大な受信機や, 向きを変えると性能が変わってしまうようなデリケートな受信機を利用したい場合に便利です.


アンテナの感度特性

ダイポールアンテナにせよパラボラアンテナにせよ, どんな方向の電波でも捕らえられるというわけではありません. たとえば,直感的にもわかるように, ダイポールアンテナは, アンテナの棒に垂直な方向に電波を放射しやすく, また垂直な方向からの電波を受信しやすい性質があります. そのため,家庭用のTVアンテナはテレビ局の放送アンテナに向けたときに テレビの映りがもっともきれいになるわけです.
パラボラアンテナの場合は, パラボラ面の中心軸(光軸)方向にはもっとも感度がよく, 光軸から離れるほど感度が悪くなります. 光軸のまわりでアンテナの感度が十分ある範囲を主ビームといいます.
光軸から測った角度(極角)の関数としてアンテナの感度特性をグラフにすると, 極角0(光軸方向)にピークをもったグラフになります. 感度特性のピークは一つではなく, 中央の大きなピークのまわりに,小さな山がいくつかできます. これは電波が干渉する性質によって生じるもので, サイドローブと呼ばれています.

天体電波の観測においても,アンテナの感度特性を十分考慮して観測しないと, 電波の到来方向や強度などの見積もりを間違ってしまいます.


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