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裳華房 今月の話題

太陽系外惑星の探査

(2002年8月1日,11月18日更新)

 

 「地球のほかにも生命は存在するのか」 という疑問を,昔から人類は抱いてきました.

 私たちの太陽系のように,恒星とその周りをまわる惑星からなる惑星系があれば,そしてその惑星が地球によく似ていれば,そこに生命が存在する可能性は高くなります.
 これまでの長い間,さまざまな推測がなされてきましたが,惑星系が存在する確かな証拠はありませんでした.
 しかし,観測技術の進展に伴い,1980年代初頭から世界のいくつかの天文台で,太陽系の外に惑星をさがす,本格的かつ地道な観測が始まりました.

 恒星(親星)の周りを惑星がまわっていると,万有引力により,惑星が公転するだけでなく,惑星により親星もわずかながら周期的に揺らされます.そのとき,親星から放たれる光はドップラー効果によって,(観察者である)私たちに近づくときは波長が短い(青い)方に,遠ざかるときは波長が長い(赤い)方にずれます.このような親星のスペクトルの周期的な変化を測定することができれば,その星の周りに惑星があるという間接的な証拠になります.
 ただし,その変化量はとても小さいので,観測にはヨードセルという特殊な装置がおもに用いられています.現在,この装置を用いて,国立天文台 岡山天体物理観測所をはじめ,世界中の多くの天文台で惑星系探しが行われています.

 1995年10月,ジュネーブ天文台の研究者たちが,ペガスス座51番星の周りを巨大惑星が公転していることを突き止めました.
 ペガスス座51番星は,太陽から42光年の距離にあるG5型の主系列星です.発見された惑星は,質量が木星の0.47倍程度の巨大惑星であるにもかかわらず,親星のすぐ近くで,太陽−地球間の距離(1AU)のわずか5%しかない軌道(太陽と水星の距離の約8分の1)を,周期約4.2日で公転しています.
 このような惑星はまったく予想されていなかったため,世界中の天文学者が驚き,疑問をもつ人たちもいましたが,この発見はその後すぐに,アメリカの別なグループによって確認されました.

 その後,観測が進むにつれて,惑星をもった恒星は次々と見つかっています.

 今年7月15日,NASA(アメリカ航空宇宙局)は,太陽系外で見つかった惑星の数が100個を超えたと発表しました.(日本惑星協会による解説記事はこちら
 101個目の太陽系外惑星は,7月上旬,オーストラリアにある口径3.9メートルのアングロ・オーストラリア望遠鏡によって発見され,質量が土星の0.69倍,今まで発見されたなかではもっとも質量が小さく,主星であるHD76700の周りを4日未満の周期で公転しています

 上記の二つを代表として,これまでに見つかっている惑星系は,巨大惑星が親星のすぐ近くにあったり,公転軌道が円ではなかったりと,太陽系とは随分異なっていることがわかってきています(この事実を受けて,現在,太陽系をベースにつくられた惑星系の形成理論の再検討が始まっています).

 ところが,今年6月,かに座55番星に,公転周期が約13年の,円に近い公転軌道をもつ木星によく似た惑星が発見されました.(NASAのプレスリリースはこちら.日本惑星協会による日本語解説記事はこちら
 この かに座55番星では,すでに1996年に約14日の公転周期をもつ惑星の存在が確認されていましたが,今回の発見をした研究チームによれば,木星に似た惑星のように安定な軌道をもった惑星があると,その軌道の内側では生命が存在できるような環境が整いやすく,二つの惑星の軌道の間では,地球のような岩石の惑星が安定して存在できることが理論的に示されるとのことです.
 地球に似た惑星が存在する可能性があるとの期待が高まっています.

 現在の観測技術では,まだ木星程度の距離にある巨大惑星を検出するのが限界ですが,欧米では,今から10年以内に,惑星探査を行う人工衛星が続々と打ち上げられる予定であり,また10年後20年後を見据えて,地球型の惑星の検出を目指したプロジェクトも始まっています(たとえばNASAの“TPF(Terrestrial Planet Finder)”,“ケプラー”,ESAの“Eddington”,“Darwin”など).

 今後,ますます技術が進歩し,観測が進むにつれて,より親星から離れた位置にある惑星や,質量の軽い地球型の惑星が見つかってくることと思います.
 果たして近い将来,地球型の惑星は,そして地球外生命は発見されるのでしょうか?


21世紀、物理はどう変わるか

  日本物理学会 編
  A5判/274頁/定価4620円(本体4200円+税10%)/裳華房

 21世紀に入った今,物理はこれからどう変わるか,物理の世界の最前線で活躍している研究者たちがそれぞれの立場から執筆.
 第8章では,「宇宙の地上観測と宇宙観測 ―太陽系外の惑星探査と地球外生命探求への展望―」として,系外惑星探査についての現状と将来展望を概説します.

『宇宙スペクトル博物館<可視光編> 天空からの虹色の便り

  岡山天文博物館館長 粟野諭美
  国立天文台 岡山天体物理観測所 乗本祐慈
  大阪教育大学助教授 福江 純 ほか
  CD-ROM+B5判ガイドブック48頁/定価4950円(本体4500円+税10%)/裳華房

 もっとも身近な光である“可視光”とは何かから,身近な色彩や風景,カメラや望遠鏡をはじめ光に関する機械や道具とその仕組み,そして可視光や近赤外線がとらえた星や星雲・星団・銀河などさまざまな天体の姿を紹介するマルチメディアCD-ROM博物館.

 「恒星と連星の世界」の展示室では,「惑星系を持つ星」として,さまざまな惑星系の種類の紹介と観測方法について詳しく解説しています.
 また,さまざまな惑星系の種類については,インターネットでの体験版でもご覧になることができます.

      → 裳華房の天文・宇宙関係書籍


国立天文台・岡山天体物理観測所

 岡山天体物理観測所は,国内最大の188cm反射望遠鏡を主力装置とし,日本の光学天文観測センターとしての役割を担っています.太陽系天体から銀河系内の天体,そして遠くの銀河とさまざまな天体を対象に,撮像・分光・測光観測が行われています.

2002年度 特別公開

 「もう一つの太陽系を探せ(系外惑星探査)」をテーマに,特別公開が8月24日に開催されます.太陽系外惑星の探査という,いま天文学でもっともホットな話題について,最新の成果を紹介します.また,反射望遠鏡のドームの公開や赤外線カメラによるデモンストレーション,研究者がその場で答える質問コーナーなどが行われます.
 当日は,隣接する岡山天文博物館も無料開館します.


太陽系外惑星の探査に関する記事

日本天文学会 公開講演会 資料 「太陽系外惑星の発見:第2の地球は何処に」(pdfファイル)
  (東京工業大学 田中秀和氏

「太陽系外惑星 − 地球外知的生命探査」宇宙科学研究所 惑星研究系 阿部新助氏

ISASニュース 「太陽系外惑星検出ミッション」宇宙科学研究所, 2002.3 No.252)


太陽系外惑星の探査の関連サイト

地球型系外惑星探査計画ワーキンググループ

 米欧の計画への参加の検討,あるいは日本独自のミッションを検討する研究者・学生等による非公式ワーキンググループ.

The Extrasolar Planets Encyclopaedia

Terrestrial Planet Finder

Darwin

California & Carnegie Planet Search

Planet Quest(JPL)

Lick Observatory

作成にあたっては,「惑星系を持つ星」(上述『宇宙スペクトル博物館<可視光編>』所載),
太陽系外惑星探査」(佐藤文衛,『天文教育』2002年No.1)等の文章を参考にさせていただきました.



         

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