太陽(The Sun)

地球にもっとも近い恒星−太陽はほとんど水素からできた巨大なガス球です. 中心部で水素がヘリウムに変換する核融合反応が起っていて, その膨大なエネルギーによって光り輝いています.

母なる太陽として,昔から人々は太陽を信仰の対象とし,畏敬の念を抱いてきました.

左:2001年6月21日のアフリカ皆既日食.撮影地はジンバブエ. 同国とザンビアとの国境付近にあるビクトリアの滝との合成写真. 実際には,ここでは日食は見えませんでした.

資料提供:菊岡秀多(大阪市立科学館)

太陽を横切る飛行機  資料提供:かわべ天文公園

太陽の動き

地球は太陽のまわりを公転しています. その公転軌道面(黄道)に対して地球の赤道面が23度27分傾いているため, 太陽の南中高度や朝夕の出入りの方向,昼夜の長さが季節によって変化します.

左:木曽観測所で見た6月と12月の太陽の動き.魚眼レンズで撮影.
上が6月,下が12月の太陽の軌道で,一枚の画像に合成してあります.

北極圏の太陽の動き  資料提供:東京大学 木曽観測所

太陽の可視光スペクトル

太陽の光(白色光)をプリズムに通すと虹の七色に分れます. このような波長別に分解された光のことをスペクトルと呼んでいます.

赤から紫まで連続的につながった虹色の太陽スペクトルの強度分布は, 絶対温度約6000度の黒体放射によく似ています. 連続スペクトル中にはフラウンホーファー線とも呼ばれる多数の暗線(吸収線)が見られます.


カルシウム H,K線

マグネシウム b線

ナトリウム D線

水素 Hα線
代表的な太陽の吸収線です. 吸収線は発見者の名前からフラウンホーファー線(Fraunhofer line)と呼ばれています. フラウンホーファーはよく目立つ吸収線にA, B等のアルファベットの大文字や小文字の記号をつけて識別しました. その中には地球大気による吸収線も含まれていました.

主なフラウンホーファー線

資料提供:国立天文台 岡山天体物理観測所

スペクトルの赤方偏移

太陽の東と西の縁付近にスリットを当ててスペクトルを観測すると, 吸収線の位置がもとの波長よりも少しずれて見えます. これは太陽の自転に伴うドップラー効果によって, スペクトル線が偏移しているからです.

左上:太陽の模式図.A,Bは観測部分,矢印は自転方向.
左下:対応するスペクトル.

AのスペクトルでもBのスペクトルでも, 地球大気に由来するスペクトル線は同じ波長です. しかし太陽に由来する吸収線の波長は少しずれています. すなわち,Aでは波長の短い方へ(青方偏移), Bでは波長の長い方へ(赤方偏移), 吸収線がずれて見えます. これは,Aでは,観測者へ近づいてくる方向で回転しているのに対し, Bでは,観測者から遠ざかる方向へ回転してためです.

この吸収線のずれの大きさから,太陽の自転速度を求めることができます.

太陽の自転速度を求めよう

資料提供:国立天文台 岡山天体物理観測所

コロナ

太陽周辺の高温(数百万度)で希薄なガスをコロナ(corona)と呼びます. 通常は,太陽本体からの強い光に邪魔されてコロナを見ることができません. 日食の時は太陽本体の光の影響がなくなるため, 目にすることができます. ちなみに,コロナとは王冠の意味です.

左:1999年8月11日,京都大学チームが撮影した, ヨーロッパで見られた皆既日食におけるコロナ. 皆既継続時間は約2分10秒で,撮影地はトルコのエラジー市. 今回初めてCCDカメラを用いて,さまざまな波長で観測を行いました.

温度によってコロナの見え方が違うことがわかります.

左上:連続光によるコロナ像.輝線ではなく,広い波長域の光で撮ったもので, いろいろな温度成分の光が含まれています. 肉眼で見るコロナに最も近いイメージです.

左下:緑の画像.波長530.3nm(5303オングストローム)で見たコロナ. 鉄の13階電離イオンが出す輝線で, そのあたりの温度が約200万度であることを示しています. この光は緑色の波長域にあるので,グリーンライン(green line)とも呼ばれています.

右上:赤の画像.波長637.4nm(6374オングストローム)で見たコロナ. 鉄の9階電離イオンが出す輝線で,温度約100万度に対応しています. レッドライン(red line)とも呼ばれています.

右下:黄色の画像.波長569.4nm(5694オングストローム)で見たコロナ. ずっと低い温度成分です.

資料提供:京都大学附属 花山・飛騨天文台

プロミネンス

太陽コロナのなかで, コロナの磁場によって支えられて“突起”のように見える部分をプロミネンス(prominence,紅炎)と呼びます.

左:2000年10月22日,京都大学附属飛騨天文台フレアモニタ望遠鏡にて撮影.
下:1999年2月8日,同上.


左図のGIFアニメーション

資料提供:京都大学附属 飛騨天文台

2000年8月3日のプロミネンスのムービー(GIF)
1992年7月31日の大規模なプロミネンス飛翔現象(GIF)
(いずれも体験版ではご覧いただけません)
さまざまなプロミネンス (体験版ではご覧いただけません)

フレア

左:大規模な2リボンフレア. 京都大学附属飛騨天文台のドームレス太陽望遠鏡(DST)にて撮影.

フレアは,黒点領域の強い磁場のエネルギーが数秒から数分という短い時間に解放され, 数千万度の超高温プラズマや,KeVからMeVの高速電子・陽子ビームが生成され, 強いX線,γ線が放出される現象です.
このような強い磁場の捻れのエネルギーが如何にして蓄えられるのか, それがなぜ突然急激に解放されるのか?  太陽フレアの研究は,恒星やブラックホール, 銀河における爆発現象の解明にもつながっています.

資料提供:京都大学附属 飛騨天文台

さまざまなフレア (体験版ではご覧いただけません)
太陽の縁近くの活動領域でのフレアの様子(1995年3月9日) MPEGムービー
フィラメント飛翔後2リボンフレアが八の字状に拡がる様子(1997年8月29日) MPEGムービー(体験版ではご覧いただけません)

スピキュール

京都大学附属飛騨天文台のドームレス太陽望遠鏡(DST)による静穏領域の画像です.

スピキュール(spicule)とは, 太陽の彩層から針のように突き出て見えるガス体です.

左:3つの波長で見た太陽の縁のスピキュール.1985年8月18日撮影.

飛騨天文台のドームレス太陽望遠鏡(DST)による静穏領域の画像です.

左:彩層中のスピキュール群(超粒状斑の境界に相当).

右:スピキュールのHα吸収線. さまざまな速度を持ったスピキュールが分解されています.

資料提供:京都大学附属 飛騨天文台

黒点

太陽面に現れる暗い斑点が太陽黒点(sunspot)です. 典型的な黒点はほぼ円形で,中央がとくに暗く(暗部), そのまわりを薄黒い部分(半暗部)がとり囲んでいます. 小さなもので直径約500km程度から, 大きなものは差し渡し10万kmにもおよびます. 黒点には強い磁場があり, その強さは約100〜4000ガウスもあります(ちなみに地球磁場は1ガウス以下).

左:多波長高分散画像.Hα中心波長から,+0.12nm(+1.2オングストローム) の連続光まで,段階的に波長域を変化させて撮影. 飛騨天文台のドームレス太陽望遠鏡(DST)による.

黒点と活動領域 (体験版ではご覧いただけません)

資料提供:京都大学附属 飛騨天文台

上:黒点のスペクトル. 1978年7月14日,国立天文台岡山天体物理観測所の65cm太陽クーデ望遠鏡にて撮影.
左は分光器のスリットのモニター像.
右は左のスリット部分から入射した光をスペクトルに分解. 黒点の吸収線(ここではFeI)は広くひろがり,分岐しています. 図上の↓は地球大気による吸収線です.

黒点のスペクトルを観測すると, 吸収線が広がっている上に3本あるいはそれ以上に分岐する様子が見られます. 吸収線が強いのは主に黒点の温度が光球より低いためですが, 線が分岐するのは黒点の強い磁場の影響によるもので, ゼーマン効果(Zeeman effect) と呼ばれる現象です. 太陽黒点のスペクトルにおけるゼーマン効果は, 1908年からウィルソン山天文台のヘール(G.E. Hale)によって系統的に観測され, その結果,黒点の磁場の極性は約11年毎に反転し, 約22年で元に戻ることが明らかになりました.

資料提供:国立天文台 岡山天体物理観測所

光球面の粒状斑

粒状斑(granule)とは,太陽表面に見える粒状の濃淡で, 10分ほどの寿命で現れたり消えたりします.

左:粒状斑の高分散画像.光球面中央. 飛騨天文台ドームレス太陽望遠鏡(DST)にて1999年8月30日撮影.

粒状斑のスペクトル(体験版ではご覧いただけません)
粒状斑のムービー
(Quick Time)(体験版ではご覧いただけません)

資料提供:京都大学附属 飛騨天文台


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