【裳華房】 『写真集 太陽 −身近な恒星の最新像−』 |
柴田一成・大山真満 共著
B5判/上製/92頁/定価4725円/2004年2月刊行
ISBN978-4-7853-2820-7
まえがき
現代は太陽観測の黄金時代である。人類がこれほどまでに太陽を詳しく観測したことはかつてなかった。その結果、太陽の驚くべき正体が見えてきた。それを写真・画像の形で紹介するのが、本書の目的である。
太陽の表面はどうなっていて、何が起こっているのだろうか? 百聞は一見にしかず。写真をよく見ていただきたい。太陽のいたるところですごい爆発やガスの運動が起きているのが見えるだろう。写真が捉えた“すごさ”を理解するには、多少の専門的な知識が必要である。それについては、各ページ毎に短い解説をつけ加えた。このあたりが、一般天文雑誌の解説とは一味違うところである。
写真・画像の選択については、もっとも時間をかけて検討した。迫力ある美しい写真を集めるだけでなく、同時に図鑑的役割を果たすことも目的としたからである。観測の発展に伴い、太陽にはさまざまな現象が発見されたが、それらには必ず何がしかの名前がついている。読者がそれらを耳にしたとき、あるいは、どんな現象か一目見たいと思ったとき、すぐに役に立つ、そんな写真集を目指した。そのため、現象としては学問的重要性を考慮し、写真としては歴史的重要性(専門の研究者なら誰もが知っている有名な写真など)を考えて、しかも一般読者にもわかる写真をできるだけ入れることにした。
しかし、ページ数にも限りがあるので、掲載から漏れた重要写真も少なくない。その選択の是非については、読者の方々の批判を待ちたいと思う。
また、本書に掲載された写真の出典は巻末にまとめてある。これを見られてお気づきのように、日本の研究所・大学の貢献はきわめて大きい。じつに全写真の約70%が我が国の太陽研究によって得られたものである。これには、1991年に打ち上げられた太陽観測衛星「ようこう」の活躍によるところがきわめて大きいが、これを支援する地上太陽観測所(京都大学飛騨天文台、国立天文台など)の活躍も特筆してよい(第VII章参照)。今や日本は世界の太陽研究をリードしているのだ。本書は、まさにそのような日本の太陽研究のレベルの高さの賜物であるとも言えよう。世の中に天体写真集というのは数多いが、太陽写真集というのは数少ない。太陽はあまりにも身近でロマンの対象になりにくいからだろうか? しかし、こんな変化に富んだ激しい姿を見せてくれる“天体”はほかにないのだ。太陽は星である。しかも、まったくありきたりの普通の恒星である。太陽がこんなに激しく活動しているのだから、はるか遠方にはもっと激しく活動している星がいっぱいあるのではないか? そうなのだ。太陽を詳しく見ると、いまだ見ることができない星々の激しい姿が見えてくる。それがおそらく太陽のロマンであろう。
一方、太陽の激しい活動は、地球および周辺の宇宙空間の環境に甚大な影響を与えている。来るべき人類の宇宙進出にそなえて、我々は太陽のことを詳しく知っておかなければならない。現在の日常生活で台風や雲の衛星写真が不可欠なように、近未来の火星旅行では、太陽写真が不可欠になるに違いない。その意味で、太陽地球環境予報は「宇宙天気予報」と呼ばれ、世界各国で本格的取り組みが始まっている。これはきわめて実用的な側面であるが、視点を変えれば、「人類はついに本格的な宇宙時代の入り口まで到達したんだ」という、前述とは別種のロマンを感じさせてくれる。
本書によって、以上のような太陽の2種類のロマンが生き生きと伝えられれば、大変幸いである。2004年1月10日
柴田一成・大山真満
自然科学書出版 裳華房 SHOKABO Co., Ltd.