裳華房のtwitterをフォローする


 ブラックホール天文学入門(嶺重 慎 著,裳華房,2005) 
まえがき

→ 『ブラックホール天文学入門』 の紹介ページへ


 「ブラックホールって,本当にあるんですか」
 結婚式に呼ばれて(場違いにも)ブラックホールの話などをしますと,よくこう尋ねられます.そんなとき,私はこう答えます.
 「はい,確かにブラックホールは存在します」

 かつて純粋に理論上の(空想の?)産物であったブラックホールは,今や観測にかかる,現実の天体となりました.私たちは今まさに,「ブラックホール天文学」の時代に突入しつつあるのです.
 これが本書の主題で,著者が一番読者にお伝えしたかったことです.と同時に,もう一つ,強調したいことがあります.
 ブラックホールというと,吸い込むばかりで何も生み出さない,どちらかというと悪者のイメージが強い存在でしたが,最近,さまざまな天体活動現象を引き起こす黒幕としての重要な働きがわかってきました.ブラックホールも,宇宙になくてはならない重要な一構成員(メンバー)なのです.

 この本では,近年の観測および理論的研究により明らかにされつつあるブラックホールの素顔,成長,誕生についてお話をします.
 重力が強大になると,何ものも(光さえも)重力を振り切って外に出ていくことができなくなります.光さえ出てこられないのですから,ブラックホールの観測は原理的に不可能なはずです.しかしながら,銀河の中心核や連星系の中のごく小さな領域に巨大な質量がつまっていることが観測的に明らかにされ,「ブラックホールを発見した」とニュースで報じられるようになりました.
 正確にいうと,これらはまだブラックホール存在の傍証で,本当の証明は,おそらく,重力波が捕らえられるようになる10年か20年先の話になると予想されています.
 ブラックホール天文学へと先鞭をつけたのは,X線観測でした.実際にX線で宇宙を見ると,可視光で見るのとは違った世界が拡がってきます.中でも連星系にあるコンパクト天体(白色矮星,中性子星,ブラックホール)や,大質量ブラックホールを中心にかまえた銀河の中心核がよく見えてきます.これらの天体の多くは,周囲のガスを吸い込み,その重力エネルギーを解放させて明るく光っています.まさに,この降着現象こそが,宇宙ジェットや高エネルギー放射など,ブラックホールのさまざまな活動性を生み出す源なのです.

 前おきはこれくらいにして,さっそくブラックホールはどこにあり,どう観測されるのか? どう形成され,どう成長し,どのような影響を宇宙に与えてきたのか? こういった話題について,歴史的な経緯から最新の成果も含めて,お話ししていきましょう.
 なお,本文の各章は一応独立した話になっており,どの章から読んでいただいても結構ですが,第3章から第5章は順に読んでいただく必要があります.また,「数式をみると読む気をなくする」という人のために,本文中ではできる限り数式を省きました.もっとも重要な数式については,「メモ」の形の囲み記事にしてありますから,必要に応じご参照ください.

 2005年3月

嶺重 慎


→ 『ブラックホール天文学入門』 紹介ページへ



         

自然科学書出版 裳華房 SHOKABO Co., Ltd.