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第44回 確率解析の創始者、伊藤清先生のエッセイ集伊藤 清 著『確率論と私』(岩波書店)
編集者のAです。私が伊藤清先生のお名前を初めて聞いたのは、もうずいぶん前のことになりますが、新聞やビジネス誌などで「金融工学」という分野の解説記事をよく目にするようになったときでした。そこには必ずといってよいほど「伊藤の公式」という式が紹介されていました。物理出身の私には、「金融工学というのは、伊藤先生という方が見出した式が基礎にあるのか」くらいにしか思っていなかったのですが、ここ数年の間に、この伊藤先生の研究室のご出身である小林道正先生に『経済・経営のための数学教室』と『経済・経営のための統計教室』という2冊の本をご執筆いただく中で、打ち合わせの際に伊藤先生のお名前を聞くことが度々あり、私の中で、伊藤先生についてもっと知りたいという思いが起こり、本書を手にしました。
この本は、「確率解析」という分野を創始した世界的な数学者である伊藤清先生が、1978年〜2006年までの28年間に執筆したエッセイを収録したものです。伊藤先生のお名前を知る方なら誰もが知りたいと思うであろう、後に「確率解析」と呼ばれる分野に繋がることになる「確率微分方程式」を考えるに至った背景や、その当時、先生が考えていたこと、取り組んでいたこと、そして、物理学と数学の違いや、数学という分野に対する先生なりの捉え方などが書かれており、数学者としての伊藤先生を知る(感じる)ことができる一冊になっています。
本書の主要目次は、
この本の中で私が特に印象に残った部分を1つだけ書かせていただくと、それは、「確率論と歩いた六十年」の中で、伊藤先生が確率論という分野に進んだ経緯について書かれている部分です。
伊藤先生は旧制第八高等学校時代に、自然現象が数学的に明快に説明できる力学に興味を持ち、大学では力学を勉強したいと思っていたとのことです。そして、大学に入ってからは、純粋数学の構造美に魅了されつつ、統計力学をやるために「大数の法則」や「中心極限定理」などを勉強していく中で、次第に「統計力学」から「確率論」に近づいていったと書かれています。
力学に対する興味をきっかけに、統計力学、そして、確率論へと進んでいったという伊藤先生。物理出身の私には、もし、伊藤先生が統計力学の分野に進んでいたならば、その後の物理学の発展にどんな影響を与えていただろうかと思うと同時に、良き師との出会いというものが、その人の人生にいかに大きな影響を与えるかということを改めて感じた次第です。
それぞれのエッセイはどれも興味深く、大変魅力に満ちたものとなっています。ここで一つ一つご紹介したいところですが、続きは、ぜひ本書を手に取ってお読みいただければと思います。
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