最大級の太陽フレア
(2001.5.10更新)
2001年4月2日21時30分(世界時)ごろ,非常に大型の太陽フレアが発生しました.
アメリカの気象衛星「GOES」に搭載されたX線観測装置のデータによれば,過去に観測された太陽フレアのなかでは最大級のものです.
また10日にも,太陽面の中央近くで大きなフレアの発生が観測されています.太陽の活動が活発となる極大期は約11年の周期で訪れ,現在,まさに太陽極大期にあると思われます.今回の一連の太陽活動で,地球の高緯度地方では連日のようにオーロラが観測され,また国内でも長野県でオーロラが見られたりもしました(本州でのオーロラ出現は12年ぶり).
太陽フレアは太陽面爆発とも呼ばれ,太陽大気中のプラズマガスに蓄えられた磁場のエネルギーが,短時間のあいだに爆発的に放出される現象です.黒点の近くで現れることが多く,非常に大規模なフレアでは,大型の火力発電所が1年間に発電する電気量の数十億倍に相当するエネルギーを,わずか数時間で解放します.
また,太陽フレアが起こると,大質量のコロナ物質が放出されることがあります.これをコロナ質量放出現象(CME)と呼びます.
しかし,フレアがなぜ発生するのかについては,いまだ多くの謎に包まれており,世界中の研究者が解明に挑んでいる大問題の一つです.太陽からは,太陽風と呼ばれるプラズマの流れが常に存在し,地球を取り巻く磁力線(地球磁気圏)によって脇にそらされていますが,太陽フレアが発生すると太陽風の突風が吹いて,この磁力線を変形させたりゆがめたりします.
そして,フレアで発生した高エネルギー粒子が磁力線をすりぬけて,地球の高層大気に侵入し,北極や南極でオーロラを引き起こしたり,人工衛星に搭載した機器の誤動作・障害を発生させたり,通信電波を乱したりします.人工衛星などの通信・放送設備に大きく依存するようになった現代社会では,太陽の活動が私たちの生活に大きな影響を与えていると言えます.
さらに,現在,国際協力による国際宇宙ステーション(ISS)の建造が進められていますが(日本時間4月30日には初の宇宙旅行者がISSに搭乗),有人宇宙活動における宇宙放射線の被曝も懸念されています.
そのため,太陽フレアやコロナ質量放出を事前に予報することが,宇宙天気予報の目標の一つとなっています.ここでは,太陽と太陽フレアに関連したホームページ,および「太陽」についての書籍のいくつかを紹介します.
▼「太陽」に関連したホームページ▼
通信総合研究所では,電磁波を用いた計測技術の応用研究の一環として,太陽,太陽風,磁気圏および電離圏などの計測と推移予測をめざした宇宙天気予報の研究を進めています.
○ 通信総合研究所 平磯太陽観測センター
太陽フレアをはじめとするさまざまな太陽活動現象の発生機構の解明と,その監視・予知技術の確立をめざした研究・開発を行っています.Hαでみた太陽像や,太陽画像データベースなどがあります.○ 太陽地球環境情報サービス
最新の太陽地球環境予報,太陽地球環境情報チャートなど,太陽活動についての最新情報はまずここへ.また「太陽地球環境予報e-mail配信サービス」や太陽物理学の用語解説などもあります.○ 4/2のフレア発生についてのプレスリリース
○ 4/2および4/10のX線フレア画像
● 太陽物理学衛星「ようこう」 (宇宙科学研究所)
「ようこう」は,1991年8月30日に宇宙科学研究所が打ち上げた太陽観測衛星で,現在も,高度約500〜800km,軌道傾斜角31度の楕円軌道で,地球のまわりを97分の周期で回っています.「ようこう」のデータアーカイブや最新画像,コロナやフレアの解説,また世界中の観測所で撮影された“昨日”の太陽像などが見られます.
○ 太陽フレアとは
野辺山観測所には,45m電波望遠鏡やミリ波干渉計,電波ヘリオグラフなど,世界的にみても大型の電波天文観測装置が設置されています.そのうち,電波ヘリオグラフ(太陽撮像電波望遠鏡)は,一度に太陽全体を観測できるように,意図的に小型のアンテナを使用した電波望遠鏡で,84台のアンテナをT字型に並べて一つの干渉計を構成し,太陽のどの部分で突然,注目すべき活動が起こっても見逃さないようにつくられています.
○ 「ようこう」軟X線望遠鏡による最新画像
○ 野辺山電波へリオグラフによる4/2フレアの観測データ
○ 野辺山偏波計による4/2フレアの観測データ○ 太陽物理学入門
フレアをはじめ,太陽で起こるさまざまな現象の解説や画像,用語集など.皆既日食でなくてもコロナが観測できる特殊な望遠鏡(コロナグラフ)による太陽コロナの観測・研究をはじめ,高山のシーイングの良さを生かして,太陽縁にみられるリム・フレア,プロミネンス(紅炎)などの現象やフレアなどの太陽面上の現象の観測・研究も行っています.
日本天文学会による「天文用語集」のなかで,「太陽」についてのページです.解説文中の天文用語が相互リンクされていますので,「太陽」についての基礎知識を知るのに大変に便利です.
○ 「天文用語集」の目次●そのほかの「太陽」関連サイト
○ 太陽観測衛星 「SOHO」 (英語)
欧州宇宙機構(ESA)とアメリカ航空宇宙局(NASA)が協力して1995年12月に打ち上げられた巨大な太陽天文台で,12種類の観測装置を搭載し,地球と太陽のあいだにあるL1ラグランジュ・ポイントで太陽の観測を行っています.○ 太陽観測衛星 「TRACE」 (英語)
NASAが1998年に打ち上げた小型の衛星で,可視光と紫外線領域で高い解像度を有するTRACE望遠鏡を搭載し,地球を南北に周回する太陽同期極軌道から連続して太陽を観測しています.○ 太陽探査機 「GENESIS」 (英語)
NASAが2001年8月8日に打ち上げられた太陽探査機.L1(第1ラグランジュ点)にて太陽風のサンプルを採取した後,採取した試料を収めたカプセルを地球に投下する予定です(2004年9月).○ SOLAR−B計画
SOLOR-Bとは「ようこう」衛星の後継機となる太陽観測衛星の名称で,宇宙科学研究所を中心に,アメリカとイギリスとの国際協力によって,2004年度の衛星打ち上げを目指して進んでいるプロジェクトです.○ 国立天文台 太陽物理学研究系
太陽大気,太陽活動,天体物理実験の3部門からなり,太陽と天体プラズマを対象とした多岐にわたる研究活動を展開しています.○ 京都大学大学院理学研究科附属 花山天文台・飛騨天文台
太陽物理学を中心に,天体プラズマ物理学,宇宙電磁流体力学などの研究が行われています.○ 名古屋大学 太陽地球環境研究所
大気圏,電磁気圏,太陽圏といった太陽地球環境を総合的に理解する研究が行われています.なお,5月26日(土)に研究所の一般公開(施設公開と講演会)が行われます.詳しくはこちらをご覧ください.○ 国立極地研究所
南極地域観測の中核となる教育・研究機関です.昭和基地は,南極大陸のなかでオーロラの観測にもっとも適した場所に位置していますが,そのオーロラをはじめとする超高層大気物理現象などの研究が行われています.○ パレットおおさき(大崎生涯学習センター) プラネタリウム・天文情報
太陽関連の記事が充実しています.10日に発生した大規模な太陽フレアの発生から衰退までのビデオ撮影による様子も見られます.○ かわべ天文公園 台長のリンク集
太陽に関係したホームページへのリンクが充実しています(矢治健太郎氏作成).○ NASA / SpaceWeather.com (英語)
最新の太陽活動(黒点,フレア,オーロラ,磁気嵐)をレビューしています.○ Sunspots and the Solar Cycle (英語)
太陽黒点活動を紹介しています.○ SEC(Solar Environment Center) (英語)
NOAA(アメリカ海洋気象局)の太陽や宇宙環境を監視する施設で,太陽画像や太陽のX線放射に関するデータが豊富です.
▼関連書籍▼
● 『写真集 太陽 −身近な恒星の最新像−』 (近刊)
柴田一成・大山真満 著/定価4950円(本体4500円+税10%)/2004年2月下旬 刊行予定/裳華房
Ha単色光や電波,X線など人間の目に見えない光が明らかにする太陽の知られざる姿から,コンピュータが描き出す太陽像まで,太陽の素顔に迫る入門書です.● 『太陽 −その素顔と地球環境との関わり−』
ケネス・R・ラング 著/定価5280円(本体4800円+税10%)/シュプリンガー・フェアラーク東京
地球の生命を育んできた「母なる太陽」の姿と,その地球環境との関わりを探る,太陽全般に関する解説書.巻末には,簡明な用語集なども収録.● 『特集 太陽に挑戦! −ここまで進んだ太陽観測−』 (宇宙と天文No.4)
宇宙と天文編集部/定価2420円(本体2200円+税10%)/誠文堂新光社
太陽観測の歴史や内部構造などの解説,探査機「ようこう」「SOHO」「TRACE」等がとらえた詳細画像など,太陽の謎に対する人類の挑戦や,ここ数年のでわかった事実をわかりやすく解説しています.● 『宇宙環境科学』 (ウェーブサミット講座)
恩藤忠典・丸橋克英 編著/定価6050円(本体5500円+税10%)/オーム社
通信総合研究所の無線通信研究100年を記念して,同研究所により企画・編集された「ウェーブサミット講座」の第7巻.太陽地球環境に関する基礎と,とくに宇宙環境の変動が宇宙や地上の社会システムに与える影響について詳しく記述しています.● 『活動する宇宙 −天体活動現象の物理− 』
柴田一成・福江 純・嶺重 慎・松元亮治 共編/定価4730円(本体4300円+税10%)/裳華房
ダイナミックに活動する天体の姿を,観測と理論,シミュレーションの観点からわかりやすく解説した現代宇宙物理学の入門書(全10章).太陽については,「日震学 −振動を使って太陽の内部を探る−」「太陽・星の磁気流体現象」の章で取り扱います.● 『天空からの虹色の便り』(宇宙スペクトル博物館<可視光編>)
粟野諭美・田島由起子・田鍋和仁・乗本祐慈・福江 純 著
CD-ROM+B5判ガイドブック48頁/定価4950円(本体4500円+税10%)/裳華房
さまざまな光を使って眺めた宇宙の姿を,多数の写真やCG,動画を使って紹介する,マルチメディアCD-ROM博物館の第3巻.
「太陽と太陽系天体」の展示室の中では,可視光スペクトルから,太陽の動き,可視光が捉えたプロミネンス,コロナ,フレア,黒点,スピキュールなどを紹介します.また,さまざまな動画のほか,太陽の自転速度を求める演習などもあります.(体験版はこちら)● 『宇宙が奏でるハーモニー』 (宇宙スペクトル博物館<電波編>)
粟野・尾林・田島・半田・福江 著/定価4950円(本体4500円+税10%)/裳華房
第2巻の<電波編>では,太陽に関しては,太陽コロナ,太陽プロミネンス,太陽フレア,太陽の電波バースト,太陽風とその速度など,電波が捉えた太陽像などを紹介します.また,野辺山電波観測所や通信総合研究所についても詳しく紹介します.(体験版はこちら)
● 『見えない星空への招待』 (宇宙スペクトル博物館<X線編>)
粟野・北本・衣笠・田島・福江 著/定価4730円(本体4300円+税10%)/裳華房
第1巻の<X線編>では,太陽に関しては,太陽コロナ,太陽フレアなど,X線が捉えた太陽像のほか,「ようこう」をはじめとする天文観測衛星なども紹介します.(体験版はこちら)
● 『宇宙環境利用のサイエンス』
宇宙開発事業団 井口洋夫 監修/定価2200円(本体2000円+税10%)/裳華房
「宇宙放射線」について1章を割いて解説.そのほか,宇宙環境を利用して何をするのか,何ができるのか,宇宙環境利用に必要な基礎知識とビジョンを提供する格好の書.
※本ページの作成にあたっては,文中で紹介した『太陽』『特集 太陽に挑戦!』『宇宙が奏でるハーモニー』の各書籍や通信総合研究所のプレスリリースなどを参考にさせていただいたほか,かわべ天文公園の矢治健太郎氏に御協力いただきました.記して感謝申し上げます.
自然科学書出版 裳華房 SHOKABO Co., Ltd.