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30万人の遺伝情報分析

(2003.02.03)

 個人の体質に最適な医療の実現をめざし,文部科学省は,糖尿病,高血圧といったいわゆる生活習慣病の患者ら約30万人の協力を得て,遺伝情報と病気の関係の分析を今年から始めることになりました.結果はデータベース化され,5年後を目処に抗がん剤など一部の薬の副作用回避システムの構築を目指しています.バイオテクノロジー分野の三大プロジェクトの一つで(あとの二つは,再生医療,および細胞・生態機能シミュレーション),この三大プロジェクトには,2002年度補正予算および2003年度当初の政府予算案で計236億円が認められており,欧米に後れをとったとされるバイオ技術を国家的プロジェクトとして推進する構えです.

 個人の遺伝情報に応じた医療(通常,テーラーメード医療と称されます)が注目されるのは,体質によってある病気になりやすい人となりにくい人がいるうえ,同じ薬でも効きやすかったり効きにくかったりするからです.副作用の出方も個人によって異なります.一人ひとりの体質を詳しく調べられないため,薬を使って初めて効果や副作用がわかるというのが現状です.

 この違いに関係するのが,SNP(一塩基多型)という,遺伝子の本体であるDNAを構成する塩基(アデニン,グアニン,シトシン,チミン)の配列の微妙な個人差です.

 全国規模の病院や大学病院などの協力を得て患者らの血液が収集され,SNPやタンパク質と病気との関連が調べられます.最も大きな問題となるであろうプライバシー保護のためには,患者情報を記録できるICカードも開発されるそうです.

 ヒトゲノムの概要版が発表されるなど,ゲノム研究は新たな段階に入ったといわれます.中でもテーラーメード医療は大きな目玉の一つですが,その実現へ向けていよいよ表立った動きが始まったといえるでしょう.


裳華房のヒトゲノム関連書籍

ヒトゲノムの光と影 −五人の研究者との対話−(ポピュラー・サイエンス 236)
 佐伯洋子 著・武部 啓 監修/定価1650円(本体1500円+税10%)

 ヒトゲノム研究にかかわる内外のキーパーソン五人へのインタビューを通し,ゲノム時代に生きるわれわれが抱える問題点を考察しています.

『生物の科学 遺伝』別冊15号 遺伝学はゲノム情報でどう変わるか
 高畑尚之・中込弥男・森脇和郎 編/定価2860円(本体2600円+税10%)

 ヒトをはじめとするさまざまな生物のゲノム解析結果を得て,遺伝学はどのような展開をみせるのか,ゲノム医療の可能性など,多彩な話題を提供しています.

ゲノムサイエンスのための 遺伝子科学入門
 赤坂甲治 著/定価3300円(本体3000円+税10%)

 ゲノムサイエンスの基礎となる遺伝子の科学を懇切丁寧に解説.遺伝子診断や遺伝子治療など,応用面にも言及しています.

○『DNA鑑定のはなし −犯罪捜査から親子鑑定まで−(ポピュラー・サイエンス 255)
 福島弘文 著/定価1650円(本体1500円+税10%)/2003年3月中旬刊行予定

 血液型鑑定に取って代わり,いまや個人識別には欠かせない技術となった「DNA鑑定」.犯罪捜査や親子鑑定の現場でどのようにDNA鑑定は行われているのか? 本書では,実際にDNA鑑定が行われた事件を紹介し,科学と法律の両面からこの技術をやさしく解説しています.



         

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