日本独自の有人宇宙船構想
(2002.3.9更新,10.17一部追加更新)
下記の「ふじ」構想の検討に参加した松浦晋也氏による解説本 『われらの有人宇宙船』 を2003年9月,ポピュラー・サイエンスの1冊として刊行しました.(詳細はこちらをクリックしてください)
宇宙開発事業団(NASDA) 技術研究本部 先端ミッション研究センターは12月10日,日本独自で有人宇宙船を開発するという構想を発表しました.
行政改革の流れのなかで,宇宙開発事業団,宇宙科学研究所,航空宇宙技術研究所の,いわゆる宇宙三機関の統合が予定されていますが,この統合に際して,今後の日本が行う宇宙開発の中心・旗印(フラッグシップ)としては何が適切なのかは非常に重要な問題です.
この次期フラッグシップとなるであろう研究開発計画(ミッション)を検討するなかで※,最有力候補として浮かんできたものが,この「日本独自の有人宇宙船構想」なのです.
※検討結果は「我が国の宇宙開発における次期フラッグシップミッションの提言」にまとめられています.次世代の宇宙船としては,スペースシャトルのような再使用できる翼をもつ単段式の宇宙輸送機(SSTO)にしようという考えが世界的な主流になっていますが,その開発には,数多くの技術的なブレークスルーが必要であり,多額の開発コストがかかります.実現の見通しは,早くても20年後(〜50年後)と考えられています.スペースシャトルも,その当初の計画とは違って,非常に高コストであることが問題となっています.
一方,アポロ宇宙船のようなカプセル宇宙船は,現在の技術を使って低コストで開発できるため,同センターでは,H-IIAロケットで(も)打ち上げ可能な,かつ安全な有人宇宙船を,次の日本の宇宙開発の旗印とすべきであると提言しています.そして,その開発を通じての新しい産業の立ち上げや,青少年の理数力を向上させる動機付け等としても有効である,としています.
(「なぜ有人宇宙船なのか」については,同提言の中の付録 「宇宙開発の究極の目標とミニマムシステムによる有人飛行」も参照)この日本独自の「ふじ型宇宙船」は柔軟な拡張性をもち,健康な人であれば誰でも搭乗が可能,またスペースシャトルのように大気圏のすぐ上の高度約500kmのあたりを飛行するのではなく,さまざまなロケットで月や火星,地球に近い小惑星まで行ける設計になっています (詳しくは提言の中味参照).
開発期間は8年,いますぐ開発にかかれば8年後に日本最初の有人宇宙船が打ち上げられます.また試算によれば,完成の暁には,1回2億円の宇宙観光も可能になるとしています.
これまで宇宙に行くためには,特別に選ばれた宇宙飛行士になるか,20億円以上を払える大金持ちになる以外に方法はありませんでしたが,2002年1月から放映される,国際宇宙ステーションを利用した大塚製薬の「ポカリスエット」のCM制作費が1億円(大塚製薬による負担金額)であることを考えれば,音楽のプロモーションや宝くじによる宇宙旅行の提供など,一般人による宇宙旅行も夢物語ではなくなります.とはいえ,これはまだあくまで「提言」の段階で,実際のプロジェクトとして承認され,動き始めるためには,国民の支持を得る必要があります.
おりしも文部科学省では,「我が国の宇宙開発利用の在り方」に対する意見募集について」というサイトをつくって,2001年1月31日まで広く意見を受け付けています.宇宙開発に興味・関心のある方は,是非意見を述べられてはいかがでしょうか.また2002年2月4日には,H-IIAロケットの試験機2号機が無事に打ち上げられ,1号機に続く打ち上げ成功は今後の宇宙開発の進展に弾みをつけることと思います(H-IIAロケットについては,「H-IIAロケット打ち上げへ」(裳華房)をご参照ください).
今年2002年は,日本の宇宙開発にとって,大きな転換点となる年になるかもしれません.
○ 「我が国の宇宙開発における次期フラッグシップミッションの提言」
○ 「日本独自の有人宇宙船構想」
○ 「日本独自の有人宇宙船構想」 質問と回答(FAQ)
○ 宇宙船コンセプトアート・ギャラリー● 「我が国の宇宙開発利用の在り方」に対する意見募集について」 (文部科学省)
※受付を終了しました
● そのほかの関連サイト
○ 2008年に宇宙旅行、日本製宇宙船で (日経ネット)
2001年12月30日付の日本経済新聞に掲載された,今回の提言に関する記事.○ 「宇宙に行きたくはないか!」(オンライン書店bk1)
今回の提言に関する解説と,有人宇宙飛行関連の書籍がリストアップされています.○ 「ふじプロジェクト協力のお願い」(SFオンライン)
文部科学省への意見表明のお願いと,単段式宇宙往還機(SSTO)について現在までの(世界での)開発状況,および「夢のSSTOは何故,実現できないのだろうか」が解説されています.○ 野尻ボード (野尻抱介 リファレンス・マニュアル)
「日本独自の有人宇宙船構想」の協力者の一人,作家の野尻抱介さんの掲示板.「ふじ」に関して,議論が展開されています.野尻さんご自身によるアピールは→ こちら.○ 著者インタビュー・笹本祐一先生 (アニマ・ソラリス)
「日本独自の有人宇宙船構想」の協力者の一人,作家の笹本祐一さんへのインタビュー記事.後半で,今回の提言に関わる経緯や内容などを語っています.○ 宇宙作家クラブのページ SPECIAL版【日本独自の有人宇宙船構想〈ふじ〉】 (SFマガジン 2002年4月号)
○ 日本独自の有人宇宙船構想 (Yahoo!掲示板)
YAHOO!掲示板の「宇宙探査」のなかでのトピックス.「宇宙開発・宇宙利用に関して」のトピックス(No.694以降)でも話題になっています.○ ☆☆ NASDA独自有人船構想 ☆☆ (2ちゃんねる)
2ちゃんねるでのスレッド.
○ 新着情報 (瀬名秀明の博物館)
作家の瀬名秀明さんのサイトでの記述(2002.2.25および2002.3.9).○ 日々是口実 (TAKACHIHO NOTES)
作家の高千穂 遙さんの日記(2001/12/30)での記述.2002/1/1,1/16の日記も参照.○ まだ一部署の提案であってNASDAの総意でないのが無念 (萬8地球店(暫定版))
イラストレーターの撫荒武吉さんの掲示板(288)におけるご本人のコメント.○ 風虎日記 (本格稼働まであと少し)
みのうらさんの日記(2001/12/14)での記述.○ これ本番ですよ。 (小川遊水池)
作家の小川一水さんの掲示板(釣りぼり)におけるご本人のコメント.○ 無念なのは (わしの部屋)
作家の日下部匡俊さんの掲示板(12月18日)におけるご本人のコメント.○ 鈴木みそホームページ
マンガ家の鈴木みそさんの日記(2001年12月21日)における記述.○ ”ふじ”プロジェクトを応援する(The Junktion Box)
長田 正章さんによる記述(2002年1月13日).○ づみ&狐の業務日誌
2001年12月11日の日記における記述.○ 過去日記 (空想風景)
十夜さんによる2002年2月25日の記述.
● 『われらの有人宇宙船 −日本独自の宇宙輸送システム「ふじ」−』 (ポピュラー・サイエンス 258)
松浦晋也 著/定価1760円(本体1600円+税10%)/裳華房
上記で紹介しているとおり,2001年の冬に公表されるや,宇宙開発に関心をもつ多くの人に大きなインパクトを与えた「ふじ」構想.この日本独自の有人宇宙輸送システムの検討に加わった著者が,自分たちの手で自分たちのための有人宇宙船をつくるための指針をやさしく解説します.「ふじ」構想の概略から,有人宇宙飛行の歴史をたどりつつ,スペースシャトルに代表される再利用型の有人宇宙船の問題点を検証し,今後,日本の宇宙開発はどうあるべきかを考えます.
→ 有人宇宙船 「ふじ」 壁紙集● 『ロケットの昨日・今日・明日』 (ポピュラー・サイエンス 126)
的川泰宣 著/定価1540円(本体1400円+税10%)/裳華房
人類とその憧れを宇宙へ運ぶロケット開発の歩みを,宇宙開発のパイオニアたち(ヴェルヌ,ツィオルコフスキー,ゴダード,オーベルト,フォン・ブラウン等)の一生を通して眺め,世界への,そして未来への貢献を語ります.● 『軌道エレベータ −宇宙へ架ける橋−』 (ポピュラー・サイエンス 165)
石原藤夫・金子隆一 共著/定価1650円(本体1500円+税10%)/裳華房
「軌道エレベータ」とは,一方の端が地表に届いてしまうような極度に縦長の静止衛星のこと.衛星から地上まで伸ばしたケーブルを利用すれば,クリーンで効率のよい宇宙への往復旅行が可能になります.このロケットに代る近未来の宇宙交輸送システムについての世界初の解説書.● 『宇宙に暮らす −宇宙旅行から長期滞在へ−』 (ポピュラー・サイエンス 254)
松本信二 監修・清水建設(株)宇宙開発室 編/定価1760円(本体1600円+税10%)/裳華房
「宇宙空間に人が住む」「宇宙に暮らす」ために,どのようなことが行われてきたのか,また行われようとしているのでしょうか.本書は,宇宙旅行と宇宙建築について,いくつかの興味ある課題を取り上げて,最新の技術について紹介します.● 『宇宙環境利用のサイエンス』
井口洋夫 監修 (宇宙開発事業団 宇宙環境利用研究システム テキストブック委員会 編集)
定価2200円(本体2000円+税10%)/裳華房
国際宇宙ステーションで,何をするのか? 何ができるのか? 物理,化学,生物学,物質科学など,各分野の第一線で活躍する研究者が,宇宙環境利用の基礎と将来ビジョンを紹介.第2章では,有人宇宙飛行技術の歴史と課題について解説.
自然科学書出版 裳華房 SHOKABO Co., Ltd.