「宇宙の日」とHII-Aロケットの打ち上げ
(2002.10.15更新)
毎年9月12日は「宇宙の日」.
これは,1992年の国際宇宙年の趣旨である“一般の人々の宇宙開発に対する理解を深める広報活動”の一環として,広く一般から募集して選定されたものです.
1992年,毛利衛宇宙飛行士がスペースシャトルで飛び立った9月12日と,1992年の九十二の語呂合わせから選ばれました.この「宇宙の日」を中心に,宇宙開発事業団(NASDA)や航空宇宙技術研究所(NAl)など宇宙開発機関をはじめ,全国各地の科学館などでさまざまイベントが催されます.
※ NASDAやNALなどの一般公開の予定は下記をご参照ください.
「2002年 研究所等の一般公開」(裳華房)
「2002年「宇宙の日」 関連イベント情報」(NASDA)「宇宙の日」の直前の9月10日(火)午後5時20分,日本の新型ロケットH-IIAの3号機が,宇宙開発事業団 種子島宇宙センターより打ち上げられました.
1号機,2号機の試験飛行に続き,この3号機の打ち上げが無事に成功したことにより,本格的な衛星を打ち上げる実用の段階に入ったことになります.H-IIAロケットは,直径4m,全長57m,重量285t.液体酸素と液体水素を推進剤とする高性能なエンジンを搭載し,さまざまな大きさや重さのペイロード(衛星など)を打ち上げられる日本の大型主力ロケットです.それまでのH-IIロケットに比べて,約半分のコストで同等の重さのペイロードを打ち上げる能力をもち,宇宙空間で別々の軌道にペイロードを投入できるロケットとしては,技術・価格ともに世界のトップクラスを誇ります.
また,固体補助ロケット(SSB)や液体ロケットブースター(LRB)を追加することで,最大H-IIロケットの約2倍の打ち上げ能力を持たせることができ,3号機にもSSBが使用されました.
この秋からは,2002年度からのH-IIA打ち上げ完全民営化を念頭に,民間への移管手続きが始まり,来年度からは製造メーカーの一元化が行われる予定です.今回の3号機は,データ中継技術衛星と次世代型無人宇宙実験システム(USERS)宇宙機を所定の軌道に投入しました.
データ中継技術衛星(DRTS)は,宇宙に浮かぶデータ中継基地として,静止軌道(地上約3万6000km)に打ち上げられ,それより地球に近い軌道をまわる宇宙機のデータを地上に届けるという,日本で初めての中継衛星です.
このDRTSを利用することによって,日本には直接電波の届かなかった人工衛星や国際宇宙ステーション(ISS)からの情報も,効率的に日本の受信局に届くようになります.次世代型無人宇宙実験システム(USERS:ユーザーズ)宇宙機は,(財)無人宇宙実験システム研究開発機構(USEF)が開発した無人宇宙実験システムで,リエントリーモジュールとサービスモジュールの大きく2つの部分から構成されます.
前者のリエントリーモジュール(REM)は,高度500kmの微小重力環境下で約8か月半のあいだ超電導材料の製造実験を行った後に,その材料を地上に持ち帰るために,自律的に大気圏に再突入して地表で回収される予定です.
サービスモジュール(SEM)は,その後も軌道上で約2年間にわたって技術データを取得します.9月10日,当初の予定通りに打ち上げられた3号機は正常に飛行し,発射後 約14分21秒後にUSERS宇宙機を,約29分36秒後にDRTSを分離し,軌道に投入したことが確認されました.
宇宙開発事業団では,DRTSが無事に軌道に投入されたことを受けて,DRTSを「こだま」と命名しました.「こだま」は,14日(土)に予定の軌道に入り,15日(土)に地上とデータ通信を行う「フィーダリンク用アンテナ」と,人工衛星などの宇宙機と通信を行う「衛星間通信用アンテナ」の二つのアンテナの展開を実施,正常に姿勢が確立していることが確認されました.
その後,静止軌道に投入するための軌道制御が9月16日より行われてきましたが,最終の軌道制御を10月11日に実施,所定の静止軌道(静止位置東経90.75度の)に投入されたことが軌道計算により確認されました.
「こだま」は現在,搭載機器の機能確認試験を実施しており,明年(2003年)1月ころより実験運用が開始される予定です.なお,次回4号機の打ち上げは,いまのところ11月15日,ペイロードは地球観測衛星ADEOS-IIが予定されています.
ここでは,おもにH-IIAロケットに関連したホームページなどを紹介します.
● H-IIAロケット最新情報 (NASDA)
宇宙開発事業団(NASDA)によるH-IIAロケットに関する公式ホームページ.H-IIAロケットに関する最新情報が日々更新されています.またH-IIAに関する各種のリンクなどもあります.
○ DRTS・USERS/H-IIAロケット3号機
H-IIAロケット3号機の打ち上げ情報や,打ち上げ中継の録画や静止画,「こだま」追跡管制レポートなど,最新情報が掲載されています.
・打ち上げ中継の録画,静止画 ・「こだま」追跡管制レポートのindex
○ データ中継技術衛星(DRTS)
○ 次世代型無人宇宙実験システム(USERS:ユーザーズ)宇宙機○ H-IIA解説シート(2001年12月)
○ H-IIA関連プレスリリース○ 「平成14年度夏季 ロケット打ち上げ及び追跡管制計画書」(pdfファイル) (NASDA)
7月17日に宇宙開発委員会に報告されたH-IIAロケット3号機に関する計画書です.○ H-IIAロケット試験機1号機(2001年8月29日打ち上げ)
○ H-IIAロケット試験機2号機(2002年2月4日打ち上げ)
打ち上げ映像などがご覧になれます.
● 宇宙作家クラブ ニュース掲示板
作家の笹本祐一氏,ライターの松浦晋也氏,イラストレーターの撫荒武吉氏らが,種子島からH-IIAロケット打ち上げや,打ち上げ前後にひらかれた記者会見の模様などを報告しています(No.607〜629).
(宇宙作家クラブは,小松左京氏を顧問とする宇宙開発に関心をもつクリエイターの集団です)
● 今回の打ち上げに関する新聞記事
○ 読売新聞
・H2A、打ち上げ成功○ 毎日新聞
・H2Aロケット3号機、打ち上げ成功−−実用衛星2基、軌道に
・H2A打ち上げ成功 「パーフェクト」 喜びの声、続々と
・H2A打ち上げ成功 停滞期脱出に光明 ビジネス参入にも追い風
・“南種子の誇り”飛んだ 地元は歓喜一色○ 南日本新聞
・H2A3号機打ち上げ 2衛星を軌道投入
・H2A打ち上げ 喜び、安ど4号機へ決意新た
・H2A3号機の2衛星、順調に飛行(以下は打ち上げ前の記事) ○ 「H2A打ち上げ「本番」 −失敗に強い危機感、実用化の正念場−」(朝日新聞 2002/9/6)
○ 「H2A:3号機10日打ち上げ −日本の宇宙開発浮沈かけ−」(毎日新聞 2002/9/8)
○ 「H2A本格運用 −秒読み3号機打ち上げ−」(南日本新聞 2002/9/1〜3)
・実用衛星初搭載 −市場の信頼獲得へ重責−
・民営化 −官との役割分担明確に−
・将来像 −不可欠な世界との協調−
宇宙と宇宙開発に携わるさまざまな「人」を紹介するコーナー.とくにH-IIAロケットに関係する方のインタビュー記事を紹介します.
○ H-IIAプロジェクトチーム主任開発部員 LE-7A開発担当 坂爪則夫氏
「エンジン燃焼試験にかける インデューサ改良で理想に近づくLE-7Aエンジン」
○ 種子島宇宙センター次長 園田昭眞氏
「H-IIAロケット打上げ迫る! 種子島宇宙センターは裏舞台も準備が進む」
○ H-IIAプロジェクトチーム副主任開発部員 松田武志氏
「1ミリ以下のへこみを見つめる目 「よくできたものは美しい」-ロケット作りの現場から」
○ H-IIAスポークスマン 丹尾新治氏
「私たちは星の子どもたち?! なぜ宇宙をめざすのか、いっしょに考えよう」
○ H-IIAプロジェクトマネージャー 渡辺篤太郎氏
「H-IIAロケットを飛ばす! 28万の部品の足並みそろえるムカデ競争」
○ 宇宙輸送推進部 岡田匡史氏
「0.5秒間に何が起こったのか ロケット再起をかけたH-II8号機の事故原因究明」
○ 宇宙輸送システム技術部 小林 渉氏
「H-IIAロケットを支える中枢部「アビオニクス系」のしくみと役割」
● H-IIAロケット 開発・製造メーカー
液体ロケットエンジンとロケット本体 → 三菱重工業株式会社 エンジンの中心となるターボポンプ → 石川島播磨重工業株式会社 固体ロケットブースター → (株)IHIエアロスペース
(旧 日産自動車)衛星フェアリング → 川崎重工業株式会社 アビオニクス系
(ロケットに搭載された電子機器)→ 日本電気株式会社
日本航空電子工業株式会社
三菱プレシジョン株式会社
三菱スペース・ソフトウェア株式会社
● そのほかの関連サイト
○ YAHOO!NEWS:H2Aロケット(YAHOO! JAPAN)
○ サイエンス・チャンネル
科学技術振興事業団が行っているCS放送.H-IIAロケットの打ち上げについても,いくつか番組が制作されています.○ ロケットシンポジウム (NASDA)
・Part.1 「H-IIロケット8号機の指令破壊から600日」(2001年7月14日)
・Part.2 「H-IIAロケット新たなる挑戦」(2001年10月27日)
H-IIAロケット1号機の打ち上げの前後に開催されたシンポジウムの模様などがご覧になれます.(映像をご覧になるにはRealPlyaerが必要になります)○ 松本零士と毛利衛の宇宙ロマン展(7/24〜9/23,日本科学未来館)
○ 宇宙科学研究所
文部科学省に属する宇宙開発機関.○ 航空宇宙技術研究所
昨年4月より独立行政法人に移行した日本のもう一つの宇宙開発機関.明年に宇宙開発事業団,宇宙科学研究所との統合が予定されています.○ 特集:ロケットの夏(SFオンライン)
Webマガジン「SFオンライン」1998年7月25日号での特集記事.○ 「日本宇宙開発の証言」(日本宇宙フォーラム)
日本がロケットの開発を初めてから,すでに50年.初期の関係者の多くは引退し,この世を去る人も出ています.さまざまな人々にインタビューを行い,日本の宇宙開発が歩んできた軌跡を振り返ります.(インタビュアー:松浦晋也氏)○ 「日本宇宙開拓史」(Webマガジン “ Anima Solaris” 掲載)
白田英雄氏が日本の宇宙開発の歴史を簡潔に紹介しています(全11回).
○ 『宇宙へのパスポート − ロケット打ち上げ取材日記1999−2001 −』
笹本祐一 著/定価1676円(本体1524円+税10%)/朝日ソノラマ
SF作家 笹本祐一氏によるH-II8号機,スペースシャトル(STS-92),アリアンV,そしてH-IIAロケット1号機に至るロケット打ち上げの取材日記.ロケットを見に行くための旅行準備から,行った先での出来事,そして何を見て感じたのかまで.オンライン書店bk1に著者のコメントがあります.また,コラムや脚注を執筆した松浦晋也氏によるコメントはこちら.○ 『H−IIロケット上昇 −国産大型ロケット開発12年の軌跡−』
松浦晋也 著/定価3080円(本体2800円+税10%)/日経BP社
国産初の大型ロケットであるH-IIの開発物語.開発にかかわった技術者をはじめとする多くの関係者に徹底的な取材を行い,大型国産ロケット開発の表舞台,裏舞台で繰り広げられたさまざまな駆け引き,そして技術者の苦闘と成果を生き生きと描き出します.(版元品切れ)【品切れの書籍はこちらで】
・図書館で探す → 国立国会図書館Web-OPAC → 大学図書館目録検索Webcat → 公共図書館横断検索(Jcross)
・古本屋で探す → 全国古書籍商組合連合会 → 古書店ホームページガイド
・復刊をリクエストする → 復刊ドットコム → ON DEMAND万能書店○ 『ロケットの昨日・今日・明日』 (ポピュラー・サイエンス 126)
的川泰宣 著/定価1540円(本体1400円+税10%)/裳華房
人類とその憧れを宇宙へ運ぶロケット開発の歩みを,宇宙開発のパイオニアたち(ヴェルヌ,ツィオルコフスキー,ゴダード,オーベルト,フォン・ブラウン等)の一生を通して眺め,世界への,そして未来への貢献を語ります.● 『宇宙に暮らす −宇宙旅行から長期滞在へ−』 (ポピュラー・サイエンス 254)
松本信二 監修・清水建設(株)宇宙開発室 編/定価1760円(本体1600円+税10%)/裳華房
「宇宙空間に人が住む」「宇宙に暮らす」ために,どのようなことが行われてきたのか,また行われようとしているのでしょうか.本書は,宇宙旅行と宇宙建築について,いくつかの興味ある課題を取り上げて,最新の技術について紹介します.○ 『軌道エレベータ −宇宙へ架ける橋−』 (ポピュラー・サイエンス 165)
石原藤夫・金子隆一 共著/定価1650円(本体1500円+税10%)/裳華房
「軌道エレベータ」とは,一方の端が地表に届いてしまうような極度に縦長の静止衛星のこと.衛星から地上まで伸ばしたケーブルを利用すれば,クリーンで効率のよい宇宙への往復旅行が可能になります.このロケットに代る近未来の宇宙交通機関についての世界初の解説書.○ 『宇宙通信よもやま話 −アンテナと電波の研究開発物語−』 (ポピュラー・サイエンス 174)
横井 寛 著/定価1650円(本体1500円+税10%)/裳華房
1963年11月,日米間で行われた初の宇宙通信実験は,はからずもケネディ大統領暗殺事件を報じることとなった−宇宙通信の黎明期から発展期にかけて新アンテナ開発に携わってきた著者が,当時のエピソードを披露.研究の醍醐味を語ります.
自然科学書出版 裳華房 SHOKABO Co., Ltd.