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裳華房 今月の話題

最近の天文・宇宙関係のNewsより

(2003.3.20更新)
 今年2月1日に起きたスペースシャトル「コロンビア」空中分解事故は大変に衝撃的でしたが,このところ「コロンビア」の事故以外にも天文・宇宙関係のNewsが相次いでいますので,その一部を簡単にご紹介します.
・近距離恒星の発見   ・宇宙の年齢は137億歳
・相次ぐプラネタリウム館の閉館   ・パイオニア10号からの最後の信号
・もっとも遠い銀河の発見    

近距離恒星の発見

 NASA(アメリカ航空宇宙局)ゴダード宇宙センターのティーガルデン(B.J.Teegarden)らは,いままで知られていなかった非常に近距離の恒星をおひつじ座に発見しました.SO025300.5+165258 と呼ばれるこの恒星,いくつかのデータを用いていわゆる三角視差によって距離を求めたところ, 2.3パーセク(=7.5光年)という値が得られました.
 太陽にもっとも近い恒星は,現在知られている範囲で,プロキシマ(4.24光年),ついでトリマン(ケンタウルス座α星,4.37光年.連星),バーナード星(5.97光年),ウォルフ359番星(7.79光年)と続きます.今回の推定距離が正しいとすれば,この恒星はウォルフ359番星よりも近くなり,三重連星系をなしているプロキシマとトリマンを一つに数えると,太陽から3番目に近い恒星ということもできます.
 ただし,この恒星の明るさは15等足らずなので,望遠鏡を使用してもなかなか見ることはできないでしょう.

・「Discovery of a New Nearby Star」(Astrophysics, abstract)
・「近距離の恒星の発見」(国立天文台・天文ニュース)

【小社関連書籍】

○ 『《光世紀世界》への招待 −近距離の恒星をさぐる−(ポピュラー・サイエンス)
 石原藤夫 著/定価1430円(本体1300円+税10%)  
○ 『《光世紀世界》の歩き方 −近距離恒星の3Dガイドマップ−(ポピュラー・サイエンス)
 石原藤夫 著/定価1980円(本体1800円+税10%)  

 太陽系を中心とした1光世紀(=直径100光年)にある近距離の恒星について,さまざまなデータを掲載した星表と多角的に捉えた星図をまとめた『光世紀の世界』の書籍版.『《光世紀世界》への招待』では星表を,『《光世紀世界》の歩き方』では星図を収録し,その活用を解説します.


宇宙の年齢は137億歳

 NASA(アメリカ航空宇宙局)のマイクロ波観測衛星WMAPの観測によって,もっとも初期の宇宙の姿が捉えられ,非常に高い精度で宇宙の年齢が137億年であると求められました.
 現在の宇宙のあらゆる空間には,非常に低エネルギーの光子(輻射)が充満しており,マイクロ波として観測されるところからマイクロ波宇宙背景放射,または3K宇宙背景放射と呼ばれています.その温度には,100万分の数度という非常にわずかな揺らぎがあり,WMAPが1年かけて全天の揺らぎを正確に観測しました.
 今回測定された揺らぎを再現するようにモデルのパラメーターを選ぶことで,宇宙の年齢や進化のようすを正確に調べることができます.その結果,宇宙の年齢のほか,宇宙誕生からわずか2億年後に最初の星が輝き始めたことなどが明らかになりました.さらに,宇宙は平らで,永遠に膨張し続けるであろうという結果も導かれています.
 WMAPによる観測ミッションは,このあとも4年間続けられる予定です.

・「New Image of Infant Universe Reveals Era of First Stars, Age of Cosmos, and More」(NASA Goddard Space Flight Center)
・「宇宙背景マイクロ波放射の観測から宇宙の年齢が正確に測定された」(AstroArts 天文ニュース)
・「宇宙の年齢は137億歳?! 」(国立天文台・天文ニュース)
・「宇宙の年齢は137億歳、姿は平らで永遠に膨張」(朝日新聞)
・「宇宙の年齢は137億歳 「誤差は1%以内−NASA推計」」(毎日新聞)

【小社関連書籍】

○ 『宇宙スペクトル博物館<電波編> 宇宙が奏でるハーモニー
 粟野・尾林・田島・半田・福江 著/CD-ROM+ガイドブック/定価4950円(本体4500円+税10%)  

 日常生活に関連の深い電波の基礎から,日本が大きく活躍する電波天文学の世界を紹介.マイクロ波による宇宙背景放射についても詳しく紹介しています.


相次ぐプラネタリウム館の閉館

 一昨年の東京・渋谷の五島プラネタリウムに引き続き,池袋のサンシャインプラネタリウムが今年6月1日に閉館するとの発表がありました.
 また,横浜市内にある神奈川県立青少年センターでもリニューアル工事に伴いプラネタリウム施設の廃止が打ち出されており,徳島シビックセンターのプラネタリウムも今年度いっぱいで終了するなど,関東のみならず全国的にもプラネタリウム館が相次いで閉館・縮小されようとしています.
 日本プラネタリウム協会はサンシャインプラネタリウムの存続を訴える声明を発表,また都区民が中心となってサンシャインプラネタリウムの存続を願う活動も行われています.一方,日本天文学会では,3月に開催される春季年会(東北大学)の会期中に,プラネタリウム館・公開天文台等の生涯学習施設のあり方を検討するフォーラムを開催,天文教育普及研究会の関東支部でも4月に研究会「プラネタリウム館の役割を考える(仮題)」の開催を予定しています.
 プラネタリウム館に限らず,日本の科学文化を支える土台として,さまざまな生涯学習施設や文化教養施設の意義・役割を,改めて考えていくことが必要な時期なのかもしれません.

・「相次ぐプラネタリウムの閉館」(国立天文台・天文ニュース)
・「サンシャインプラネタリウムが6月1日で閉館」(AstroArts 天文ニュース)
サンシャインプラネタリウム存続を願う会
研究会「プラネタリウム館の役割を考える(仮題)」(天文教育普及研究会 関東支部)

【小社関連書籍】

○ 『地上に星空を −プラネタリウムの歴史と技術−(ポピュラー・サイエンス)
 伊東昌市 著/定価1650円(本体1500円+税10%)  

 長年プラネタリウムを使った天文教育に携わってきた著者が,おもにプラネタリウムのしくみの観点からその歴史を概観します.また,プラネタリウム館が抱える現状の問題点や将来展望も熱く語ります.


パイオニア10号からの最後の信号

 NASA(アメリカ航空宇宙局)は2月25日,惑星探査機パイオニア10号からの交信がついに途絶えたと発表しました.1972年3月の打ち上げ以来,じつに30年以上にわたってデータを送り続けてきたことになります.
 パイオニア10号は,1972年7月に探査機としては初めて小惑星帯を越え,1973年12月からの木星の探査を経て,1983年には冥王星軌道より遠いところまで到達し,初めて太陽系外に出た探査機となりました.また,故カール・セーガン博士らの考案で,存在するかも知れない地球外知的生命に向けて,メッセージを書き込んだ銘板(太陽系や人の姿を描いた金のプレート)が積み込まれています.
 最後の信号は1月22日,地球から約120億km離れたところから送られたものです.交信は途絶えたものの,パイオニア10号は地球から約70光年離れたおうし座の赤色巨星アルデバランの方向に飛び続けます.

・「Pioneer 10 Spacecraft Sends Last Signal」(NASA NEWS)
・「パイオニア10号から最後の信号が届いた」(AstroArts 天文ニュース)
・「E・T探査の米パイオニア10号がサヨナラ交信」(読売新聞)
・「惑星探査機:パイオニア10号と交信途絶える 31年目で」(毎日新聞)

【小社関連書籍】

○ 『宇宙スペクトル博物館<電波編> 宇宙が奏でるハーモニー
 粟野・尾林・田島・半田・福江 著/CD-ROM+ガイドブック/定価4950円(本体4500円+税10%)  

 日常生活に関連の深い電波の基礎から,日本が大きく活躍する電波天文学の世界を紹介.パイオニア10号についても「地球外知的生命の探索 (SETI)」の項で詳しく紹介しています.


もっとも遠い銀河の発見

 国立天文台や東北大学の研究者を中心とする「すばる深宇宙探査計画」チームは3月20日,ハワイのすばる望遠鏡によって,人類の観測史上,もっとも遠くにある銀河を発見しました.この銀河までの距離は約128億光年,赤方偏移は約6.6を示し(より遠くにある銀河ほど赤方偏移は大きくなります),宇宙が誕生した約137億年前から,約9億年しか経過していない時代の,生まれたての銀河ということになります.
 チームでは,すばる望遠鏡に特殊なフィルターを取り付けた広視野カメラで天体を検出し,分光観測によって地球からの距離を確認しました.
 宇宙が誕生してから間もな い銀河の発見によって,宇宙の誕生直後の様子について,さらに 理解が深まるものと期待されています.今後も観測プロジェクトは続行され,さらに多くの,遠くの銀河を発見することでしょう.

・「すばる、最も遠い銀河を発見」(国立天文台プレスリリース)

【小社関連書籍】

○ 『生れたての銀河を探して −ある天文学者の挑戦−(ポピュラー・サイエンス)
 谷口義明 著/定価1650円(本体1500円+税10%)  

 「すばる深宇宙探査計画」チームの中心者の一人である著者が,赤外線天文衛星を使って深宇宙探査に挑んだドラマや,ハッブル宇宙望遠鏡・ケック望遠鏡などによって生まれたての銀河を探究する様子など,日頃触れることのない天文学者の有様を興味深く語ります.



         

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